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犬吠埼

千葉県銚子市は、日本列島が弓なりに曲がる角に位置する。江戸時代から親潮と黒潮が出会う漁場であるとともに、醤油作りが盛んだった。JR銚子駅から、銚子電鉄というレトロな電車に乗ると、キャベツ畑や、醤油工場のそばをごとごとと走って、犬吠(いぬぼう)駅に着く。犬吠埼灯台は、三方に太平洋の荒波が打ち寄せ、昔「国のとっぱずれ」と詠まれたところだ。そこから水平線を眺めていると、日本は島国だなあ…と思う。海に近い遊歩道に下りたら、ざんぶりと打ち寄せる白い波しぶきを浴びてしまった。しょっぱかった。

「東風吹かば匂いおこせよ梅の花…」

京都の北野天満宮は、梅の花が満開だった。梅は、桜ほど派手ではないが、紅梅、白梅と並ぶと、春が来た喜びを控えめな中にも華やかに告げている。天満宮は、今でこそ「学問の神様」として、全国で平和に信仰されているが、平安時代、この歌を残して福岡の大宰府に左遷された菅原道真の霊を鎮めるために建立された当時の北野天満宮は、さぞ凄まじい「気」に満ちていたことだろう。去年、訪れた大宰府天満宮の方は、同じ道真を祭っていても、のびやかで明るい感じがした。荒れた天候などを、怨霊になった道真のたたりだと信じた京の都人(みやこびと)は、よほど後ろめたかったのだろうか。

「尾張名古屋は城でもつ」

 金のシャチホコの名古屋城は、今なお名古屋の街のシンボルだ。徳川美術館には、国宝「源氏物語絵巻」をはじめ数多くの美術品がある。中でも、毎年、今頃開かれる「雛道具展」は楽しい。代々の姫が輿入れに持参した雛道具を展示するのだが、本物をミニチュアにした豪華なつくりの調度や、絵が金箔をつかって描かれた貝合わせの貝もある。御三家の一つ尾張徳川家の財力を物語るようだ。
 秋の「名古屋まつり」には、信長、秀吉、家康の「英傑行列」がある。実は、このあたりは戦国時代を動かした三名の出身地なのだ。にもかかわらず、名古屋は徳川の将軍を出したこともなく、日本の中心地になったこともない。人々の暮らしぶりも、豊かではあるが、冠婚葬祭以外には地味で「偉大なる田舎」と称されてきた。
 ところが、最近は、世界に羽ばたくトヨタ自動車のお膝元ということで、日本一景気がよい街になってきた。名古屋駅前にも超高層ビルが次々と建ち、ブランドの直営店や豪華なレストランが人気を集めている。マスコミの注目も集めるようになってきた今後、名古屋人気質も変わっていくのだろうか?

クロテッド・クリーム

クリスティも書いている「デヴォンシャーのクロテッド・クリーム」を味わってみたいものだとおもっていたら、国産のものを見つけた。さっそく、小麦粉とバターと牛乳をこねたスコーンもどきを焼いて、濃いミルクティーを入れて、ジャムとクロテッド・クリームを添えた。濃厚でこってりしたクリームそのもので、それに比べると普通の生クリームを泡立てたwhipped creamが、とても軽く感じられる。優雅に気取ったイギリス貴族のティータイムというより、農家の素朴で実質的なお茶の時間という感じがした。

手作りパスタ

ジャガイモをゆでてマッシュにして、粉と卵を混ぜて、よくこね、一口大に形作って、塩を入れたたっぷりのお湯に入れてゆでて、「ニョッキ」を作ってもらった。セロリとパセリをきかせたミートソースをかけて、粉チーズを振ると、イタリア風の素朴な一皿。なめらかな舌触りでおいしかったが、見かけによらずボリュームがあって、おなかいっぱい。

光の春

二月は「光の春」。立春を過ぎると、寒いけれど、日ごとに日差しが暖かく、また夕暮れが遅くなり、春が待ち遠しくなる。毎年、早めにお雛様を飾る。部屋が、ほんのり華やいで春めいた雰囲気になる。今年は記録的な暖冬なのでなおさら春が近いが、春を「待つ」ところが、いい。春だけではなく、何でも「待っている」ときが一番いいのかもしれない。

ヤロー

一足先に春たけなわだった沖縄名護のハーブ園に、「ヤロー」という花があった。どこかで聞き覚えがあるなあと思ったら、「A Wizard of Earthsea」(ゲド戦記「影との戦い」)の主人公、Gedの親友Vetch(カラスノエンドウ)の妹が、Yarrowという通称だった。日本語では「ノコギリソウ」という訳で、どんな花か見当がつかなかったが、紫色の小花が集まった可憐だがたくましい野の花という感じだった。昔から薬草として使われていたらしい。トロイア戦争に、アキレウスが止血剤として持っていったとホメロスが書いているそうだ。

沖縄

久しぶりに沖縄へ行った。那覇空港から首里まで「ゆいレール」という二両編成の可愛いモノレールが通っていた。まず、見事に整備された首里城公園と、王家の別邸だった識名園(しきなえん)に行った。名護城址公園では、日本一早い桜祭りをやっていた。こちらの桜は、ヒカンザクラといって桃色が濃くてかわいい。
それから、かりゆしビーチに行った。明るい青色の空の下、白い砂浜の向こうに、手前がエメラルド・グリーン、沖がコバルト・ブルーの海が続く。日中は半袖でもいいほどの暖かさで、南国ののびやかな雰囲気に心ものびのびする。
沖縄の楽しみは食べ物。まずゴーヤ・チャンプルーと、ヘチマの味噌煮と、ソーキそば。それから小ぶりのオレンジに似たタンカンを買ってみた。外皮が汚い方が熟しておいしいそうだ。丸いドーナツ、サーターアンダーギーの揚げたても、うっちん茶によく合って、おいしかった。「うっちん」はウコン、つまりターメリックのことで、カレー風味のお茶だ。空港で食べたサトウキビ味のブルーシール・アイスクリームで以上終わり。

チョコレート

チョコレートが目につく季節だ。私は、チョコレートはあまり好きではないが、秋の夕暮れ、ストックホルムのカフェで飲んだホット・チョコレートは実においしかった。あちらの湿気が少ない気候によく合っていたのだろう。日本では、世界中の食物が輸入されているが、やはり現地で味わうのが一番だと思う。

グリーンスリーブス

「Greensleeves」は、16世紀のイギリス、エリザベス一世の時代に流行したという古い歌だが、きれいなメロディーで今も演奏される。
ある男性が、「緑の袖のドレスが似合うあなたへ」と呼びかけて、恋する女性への想いを歌うもので、そのロマンティックな雰囲気をうまく作品に取り入れているのが、Alison Uttleyの「A Traveller in Time(時の旅人)」だ。
ところが、原詩を調べてみたら、「上等なスカーフ、最高級のペチコート、宝石、金の縁どりの絹の上着、真珠を飾った金のベルト、真っ赤な絹の靴下、真っ白な靴、袖がふわっとした緑のドレス、金の房飾りがついた靴下止め、それに馬に、召使」など、贈った物を、こと細かに並べたてた挙句、「こんなに散財したのに、それでもあなたはふりむいてくれない」という、なんだか現実的な歌だった。