記事一覧

「三番叟(さんばそう)」

野村萬斎の「三番叟」を見た。
「三番叟」は、たいそう歴史が古く、能「翁」の中で狂言師が勤めたもので、「舞う」のではなく「踏む」と表現するそうだ。
地を踏み固め、土を耕し種をまき虫を払うといった農耕作業を表した動きが素晴らしく洗練されたものになっていて、囃子に合わせて力強い美しさを生み出していた。いわば、大地に捧げる五穀豊穣祈願の儀式だ。
天上の神に向かって体をそらせジャンプする西洋のバレエとは対極をなすものだと思った。

その二日後、兵庫県西宮市の白鹿記念館で上村松園の「寿 女三番叟」という題の掛け軸にたまたま出会った。手に持つ鈴の音が聞こえてくるような気がした。

あやとり

小学生の女の子三人が、毛糸の輪であやとりをしていた。
「誰に教えてもらったの?」と聞いたら、一人は「ママ」と答え、もう一人は「本で」と答えた。いまや手遊びの伝承にも、本は役立っているようだ。

「トーベ・ヤンソン展」

アップロードファイル 566-1.jpgアップロードファイル 566-2.jpg

トーベ・ヤンソン(1914-2001)は、スウェーデン系フィンランド人である。ムーミンの作者として有名だが、油絵もずっと描き続けていた。何枚も残る自画像には、意志の強い自立した女性の姿がよく表されている。
政治風刺雑誌のイラストやアリスの挿絵などの他、十数センチ四方の小さな紙にペンで描かれたムーミンの挿絵がたくさん展示されていた。

ムーミンは小さい種族である。
ムーミン・シリーズには、ムーミン一家の他に、スノークのおじょうさん、スナフキンとちびのミイの兄妹、ヘムレンさん、フィリフヨンカ、そして作者のパートナーだったトゥーリッキをモデルにした「おしゃまさん」(トゥーティッキ)など個性的な面々が登場する。作者が夏を過ごしたクルーヴハル島の映像を見ながら、彼らは、あの広大で厳しく美しいフィンランドの自然から生まれたのだとしみじみ思った。

秋到来

アップロードファイル 565-1.jpg

昨夜は、旧暦8月15日、中秋の名月だった。
真夜中の天頂に、白っぽい満月が輝いていた。
今朝は、爽やかな晴天で空が高い。
秋が来た。

「カニ」は「ウサギ」!?

英国のポター作「ピーターラビット」は、フィンランド語で「ペッテリカニ」と言うそうだ。「カニ」が「ウサギ」の意味なのは面白い。

同じウサギでも、オランダのブルーナ作「うさこちゃん」は「Miffy」としても知られているが、本名は「ナインチェ」(Nijntje)だ。

有名人(いや、人ならぬウサギ!)ともなると、この他にも世界中で色々な呼び名があることだろう。
ちなみに、両方とも日本では石井桃子訳である。

奈良の旅

アップロードファイル 563-1.jpgアップロードファイル 563-2.jpgアップロードファイル 563-3.jpgアップロードファイル 563-4.jpg

・奈良県桜井市の安倍文殊院(あべもんじゅいん)。
御本尊の文殊菩薩は、13世紀初めの鎌倉時代の仏師、快慶により作られたもので獅子の背に乗っていた。境内には、7世紀なかばに造られた「文殊院西古墳」もあった。

・奈良市の依水園(いすいえん)。
江戸時代と明治時代に造られた二つの庭があり、若草山や東大寺南大門を借景としていた。

・東大寺ミュージアム。
日光菩薩と月光(がっこう)菩薩は、ガラスケースの中ながら美しく威厳があった。

・奈良ホテル。
香ばしい茶粥と赤だしの朝食と、松の実タルトのティータイム。

・橿原市(かしはらし)の奈良県立橿原考古学研究所附属博物館。藤ノ木古墳の金銅製冠をはじめ出土品が多数。奈良県は古墳が多い。

諏訪大社

アップロードファイル 561-1.jpgアップロードファイル 561-2.jpgアップロードファイル 561-3.jpg

長野県茅野市と諏訪市にある諏訪大社の上社(かみしゃ)の前宮(まえみや)と本宮(ほんぐう)に行った。

上社の前宮と本宮、下社(しもしゃ)の春宮(はるみや)と秋宮(あきみや)の、それぞれの社殿の四隅に建てられているモミの大木を御柱(おんばしら)という。これらを建て替え、宝殿を造る御柱(おんばしら)祭が、寅年と申年に行われるそうだ。

長野県から岐阜県へ

アップロードファイル 560-1.jpgアップロードファイル 560-2.jpgアップロードファイル 560-3.jpgアップロードファイル 560-4.jpgアップロードファイル 560-5.jpg

一日目
・諏訪大社の上社(かみしゃ)。上社の前宮(まえみや)は茅野市に、本宮(ほんぐう)は諏訪市にある。
・諏訪湖の遊覧船と花火。花火の音が周囲の山々に反響する。
・上諏訪温泉。

二日目
・木曽路(中山道)
長野県塩尻市の奈良井(ならい)宿。岐阜県中津川市の馬籠(まごめ)宿と中津川宿。水の流れる音が良い。南下するにつれ湿度が高くなる。
・中津川市「すや」本店の栗きんとん。

三日目
・恵那峡(岐阜県恵那市)の遊覧船。
・明知鉄道(恵那から終点の明智まで)。岩村の城下町と松浦軒本店カステーラ、山岡の寒天、大正村。

レオナルド・ダ・ヴィンチと「アンギアーリの戦い」展

アップロードファイル 559-1.jpg

15世紀半ば、トスカーナ地方のアンギアーリで、フィレンツェとミラノが戦い、フィレンツェが勝った。

この戦いを題材に、16世紀初め、レオナルド・ダ・ヴィンチはフィレンツェ共和国の依頼で、パラッツオ・ヴェッキオに壁画を描き始めた。その中心となる軍旗争奪の場面は、16世紀の油彩画「タヴォラ・ドーリア(ドーリア家の板絵)」に残されている。

作品は未完成に終わったが、これまでにない臨場感溢れる戦いの描き方は、多くの画家に模写され、ラファエロ、ヴァザーリ、ルーベンスはじめ後世の画家たちに大きな影響を与えた。その影響力の大きさから、今となっては存在しない壁画の素晴らしさを想像するしかない。

"Puck of Pook's Hill"

夏至の前日に、英国南部サセックス州で、兄妹がシェイスピアの「夏の夜の夢」を演じていたら、本物のパックが現れた。

彼は、夏至から晩秋にかけて、4世紀の古代ローマの百人隊長、11世紀のノルマンの騎士、13世紀のマグナ・カルタ制定に関わったユダヤ人、そして16世紀のルネッサンス人を呼び出して、子どもたちが今いる場所がどんな風だったか、そしてどのようにして「イングランド」ができてきたのかを教えてくれる。

ところで、「マグナ・カルタ(大憲章)」は、1215年に、当時のジョン王が王権の制限を受け入れたもので、現在の英国憲法にも生かされているという。今年の6月15日に、その制定後、800年になる記念式典が、エリザベス女王やキャメロン首相も出席して行われたというニュースがあった。パックが見てきた英国の歴史は今も続いている。

"Puck of Pook's Hill"1906 by Rudyard Kipling