奈良の興福寺の仮金堂に、阿修羅(あしゅら)立像をはじめとする天平乾漆(かんしつ)像14体がそろって安置された。乾漆像とは、土台の上に麻布をかぶせ、その上に漆を塗って乾かし、その後、土台を取り去ったものらしい。
また国宝・北円堂の運慶一門作の阿弥陀如来坐像なども公開された。四天王に踏んづけられた邪鬼が、気の毒ながらユーモラスだった。
ガラスの陳列ケースの中の「美術品」でなく、お堂の中にあるので、どの像にも本来の威厳が感じられた。
とりわけすばらしかったのが阿修羅像だった。阿修羅は、古代インド神話の激しい怒りを表す軍神という。けれど、この阿修羅像は、三つの顔と六本の腕を持つ細身の少年で、繊細な美しさと同時に強さも感じさせる。仏像を魅力的だと思ったのは、初めての経験だ。