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梟山伏

「梟山伏」(ふくろやまぶし)」という狂言がある。
フクロウのように「ホーホー」と啼く病気にかかった患者を治そうと山伏がよばれるが、このフクロウ菌は強力で、折伏どころか周りの人も感染し、ついには山伏も感染してしまう。

「ホーホー」という鳴き声と仕草が面白くて舞台を見たときは笑ったが、医療従事者も感染している現状では笑えない。
14世紀の室町時代に確立した長い歴史を持つ狂言の乾いた笑いの裏には、いくさ、疫病など厳しい現実があり、それらを乗り越えて笑いに変える強さとしたたかさが含まれているのだろうと思った。

万作萬斎狂言公演

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今日の曲目は・・・

「長光(ながみつ)」
都見物に出かけた坂東方の男が、持っていた太刀をすっぱ(詐欺師)に狙われる。目代(代官)の前で、太刀の特徴をそれぞれ言い立てることになり、すっぱは盗み聞きで何とか対応するが・・・。

「鐘の音(かねのね)」
主人が息子の元服に黄金の太刀を誂えようと思い、金の値段を聞きに、太郎冠者(万作)を鎌倉へ遣わす。太郎冠者は「金の値」を「鐘の音」と思い込み、寺を巡って帰り、主人の前で鐘の音を謡い踊って説明するが・・・。

「千切木(ちぎりき)」
連歌の会に仲間外れにされた太郎(萬斎)が、難癖をつけに行き逆に放り出されてしまう。太郎の妻は、太郎に無理やり棒を持たせ仕返しに行かせようとけしかけ、太郎は嫌々出かけるが・・・。

「千切木」とは、武器にするための棒で、「いさかい果てての千切木」という諺から取られたもの。「時機に遅れて役に立たない」という意味になる。

秀山祭九月大歌舞伎

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秀山祭九月大歌舞伎(夜の部)

一、菅原伝授手習鑑 寺子屋

寺子屋を営む源蔵(幸四郎)は、流罪になった菅丞相(かんしょうじょう)の子、菅秀才を守っている。それを時平(しへい)方に知られ、新入りの子を身代わりに討つ。首実検にやってきた今は敵方の松王丸(吉右衛門)が、認めたため菅秀才は助かる。そこへ討たれた子の母、千代(菊之助)がやってくる。実は、千代は松王丸の妻で、夫妻は自分の息子を身代わりに差し出したのだった。
道真は平安時代の人だが、江戸の話になっていた。

二、歌舞伎十八番の内 勧進帳

幸四郎の弁慶と錦之助の富樫

三、秀山十種の内 松浦の太鼓(まつうらのたいこ)

師走の両国橋で、俳人の其角(きかく)(東蔵)と落ちぶれた赤穂浪士の大高源吾が再会。翌日の句会で、屋敷の主、松浦候(歌六)は赤穂浪士が仇討ちを果たさないことに業を煮やし、源吾の妹お縫(米吉)に辛く当たる。其角が源吾の残した句を伝えると、松浦侯はその真意を察し喜んだところに、討ち入りの太鼓が鳴り、源吾が現れ吉良邸討ち入りの顛末を伝える。
忠臣蔵外伝物で、この演目を初演した三世中村歌六の追善狂言。


悲劇の人、道真や義経に仕える忠実な部下の話、そして非業の主君の仇討を果たす赤穂浪士の話が江戸の人々のお好みだったようだ。

四月大歌舞伎

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平成最後の四月大歌舞伎、夜の部

一、実盛物語(さねもりものがたり)

 12世紀初、出産間近の葵御前(木曽義賢の妻)が百姓夫婦とその孫、太郎吉の家に匿われているところに、平家方の斎藤実盛(仁左衛門)と瀬尾十郎が検分にやってくる。産まれたのが男子なのを隠すため、百姓夫婦は直前に見つかった女の腕(かいな)を差し出す。実は、その腕は源氏の白旗を握って息絶えた小万のもので、切ったのは実盛だった。密かに、元々仕えていた源氏方に心を寄せる実盛は、瀬尾を巧みに言いくるめて葵御前の危機を救う。瀬尾が去った後、実盛はその様子を語る。実は小万は百姓夫婦の娘で、それを盗み聞いていた瀬尾は、太郎吉が自分の孫だと悟り、自分を打たせて「手塚光盛」を名乗らせる。実盛は、自分を敵と狙うのを承知で太郎吉を励ます。

将来、その手塚光盛が実盛を打ち取ることになるらしい。当時の人々は、そこまで知っていたので実盛の男気にいっそう惹かれたのだろう。


二、猿翁十種の内 黒塚(くろづか)

 諸国行脚の途中の阿闍梨一行が、ススキが生い茂る奥州安達原で、老女(猿之助)の家に一夜の宿を請う。老女は、阿闍梨の言葉に心が救われ月明かりのなか無心で踊る。ところが、決して見てはならぬと言い置いた一間を見られたと知り、鬼に戻ってしまう。安達原の鬼女伝説を基にした舞踊劇。

三、二人夕霧(ににんゆうぎり)

 藤屋の伊左衛門(鴈治郎)は、馴染んだ遊女の夕霧に先立たれ、今は二代目夕霧と所帯をもっているが、借金取りに着物をはぎ取られ紙衣姿(先の夕霧の手紙をつないだもの)になってしまう。そこに現れたのは死んだと思っていた先の夕霧。どたばたの挙句、勘当も許され、二人の夕霧は本妻妾としてめでたしめでたし!?

上方の舞踊劇。夕霧というのは上方で有名な早死にした遊女だそうで、これはその後日譚のパロディらしく、元ネタを知っていた当時の人々は楽しんだのだろう。

「まつしまや!、おもだかや!、きょうや!」と盛んに大向こうから声がかかっていた。

春爛漫:茂山狂言会

「太刀奪(たちうばい)」
北野天満宮の「お手水(おちょうず)」の神事の日、主人と太郎冠者は太刀を奪おうとして逆に、男に奪われてしまう。太郎冠者はやっと捕らえた男を縛ろうとその場で縄を綯い始める。「泥縄」が題材。

「仏師(ぶっし)」
持仏堂を建てた田舎者が、仏師を探しに都に行く。仏師のふりをしたすっぱは、自分が仏像のふりをするが?

「蚊相撲(かずもう)」
「相撲の者」を召し抱えたい大名のために太郎冠者が連れ帰ったのは、人間の血を吸いたい蚊の精だった!

「御田(おんだ)」
京都、加茂明神の神職(千五郎)が五穀豊穣を祈るための御田植神事を始めようと、氏子の早乙女たちを呼び出し、田植えの歌舞をおこなう。

「腰祈(こしいのり)」
修行を終えた山伏が、久々に都に行き、祖父の曲がった腰を法力で伸ばそうとするが?

笑いだけでなく、650年の伝統をも感じさせる演目だった。

「阿古屋」再び

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京都四条南座で「坂東玉三郎特別公演」を見た。

1、壇浦兜軍記:阿古屋
昨年末の歌舞伎座に続き、玉三郎の「遊君阿古屋」と彦三郎の「重忠」。
歌舞伎座より舞台が近いので臨場感溢れる。

2、太刀盗人(たちぬすびと)
彦三郎の「すっぱ」と、弟の亀蔵の「田舎者」。
狂言の演目だが、長唄囃子が加わり賑やか。

3、傾城雪吉原(けいせいゆきのよしわら)
玉三郎の舞。一つ一つの所作が無駄が無く、絵になる。
ひたすら美しい。

おまけは、餡と生クリームと生八ツ橋を食パンに挟んだ「八ツ橋サンド」。

淡路島の狐

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淡路人形浄瑠璃を、ゆかりの地、西宮市の県立芸文センターで見た。太夫、三味線、三名の人形遣いにより人形に命が吹き込まれる。

演目は、
・戎舞(えびすまい)・・・西宮神社に祭られたえびす様の舞、釣り上げた鯛も生きが良い。
・玉藻前曦袂(たまものまえあさひのたもと)
四段目:神泉苑の段、五段目:狐七化けの段・・・狐が主役、人形遣いの早換わりも見事。

「阿古屋」

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十二月大歌舞伎
夜の部

一、壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)阿古屋(あこや)

平家滅亡後、平家の武将の景清(かげきよ)の行方を問いただすため、愛人の遊女、「遊君(ゆうくん)阿古屋」(玉三郎)が引き出される。景清の所在を知らないという阿古屋を岩永左衛門(松緑)は拷問にかけようとするが、詮議の指揮を執る重忠(しげただ)(坂東彦三郎)は、阿古屋に琴、三味線、胡弓を弾かせることで心の内を推し量ろうとする。言葉に嘘があるなら、調べに乱れが表れるというのである・・・。

人形浄瑠璃が元なので、岩永左衛門は人形の振りをする。
三曲を実際に演奏しながら細やかな心情を表現しなくてはならない女方の大役「阿古屋」を、玉三郎が若手二人に引き継ごうとしている。

二、あんまと泥棒
NHKラジオドラマの脚本を元にしたもの。
ある夜更け、あんまの秀の市(中車)の家に、泥棒の権太郎(松緑)が押し入って金を出すよう迫るが・・・。

三、二人藤娘(ににんふじむすめ)
娘姿の藤の精(中村梅枝、中村児太郎)による舞踊。
琵琶湖畔の松の大木にからむ藤の花のもとに、美しい娘姿の藤の精が現れて踊る。衣装の早替わりが何度もあり華やか。

貫禄の阿古屋と初々しい藤娘だった。

吉例顔見世大歌舞伎

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吉例顔見世大歌舞伎
夜の部

一、楼門五三桐(さんもんごさんのきり)
桜満開の南禅寺山門の楼上で、天下の大泥棒石川五右衛門(吉右衛門)が、煙管をくゆらせ「絶景かな、絶景かな~」。

二、文売り(ふみうり)
雀右衛門の舞踊。

三、隅田川続俤(すみだがわごにちのおもかげ)法界坊
悪党だが憎めない生臭坊主の法界坊(猿之助)が永楽屋の娘おくみ(尾上右近)に恋慕。おくみは手代の要助と恋仲だが、要助は京の公家の嫡男松若丸で、紛失した御家の重宝「鯉魚(りぎょ)の一軸(いちじく)」を探している。
そこへ許嫁の野分姫も江戸にきて要助を取り合う。
一軸と娘二人を手に入れようとする法界坊の暗躍。
法界坊は野分姫を殺し、自分も殺され宙乗りの幽霊として登場。

浄瑠璃「双面水澤瀉(おもだか)」
猿之助が、おくみに化けた「法界坊と野分姫の合体した霊」を一人で演じ分け、早変わりもする。


合羽(かっぱ)橋道具街
椿山荘のアフタヌーンティー

「どんだろどのの、てーぐるま」

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「万作萬斎狂言」を見た。

・「萩大名(はぎだいみょう)」
「七重八重 九重とこそ思ひしに 十重咲きいずる萩の花かな」という歌を、太郎冠者に教えてもらったが思い出せずに四苦八苦する田舎大名の話。

・「柑子(こうじ)」
土産物の三つ成りの柑子(みかん)を食べてしまった太郎冠者(万作)は、主人にあれこれ言い訳をする。挙句の果て、平安末期、京の六波羅に平家がいた時代、島流しになった三人のうち、一人だけ許されず島に残された僧の俊寛の話まで持ち出す。

・「鈍太郎(どんたろう)」
三年ぶりに西国から帰京した鈍太郎(萬斎)は、妻と女を訪ねるが二人とも本人だと信じないので、落胆して出家の旅に出る。その後、二人は出家を思いとどまるように頼む。調子に乗った鈍太郎は・・・?

「萩大名」は三度目だが、演者によって雰囲気が全く変わる。扮装や舞台装置が無く、ことばだけなので、演者の力量や個性がはっきりと出る厳しい世界だとあらためて思った。

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