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バイオリン・コンサート

大ホールの四階まで満員の聴衆二千人。照明が消えると客席のざわめきが静まり、演奏を待ち受ける張りつめた沈黙が満ちる。次の瞬間、真っ暗な舞台にスポットライトが当たった演奏者が浮かび上がり、パガニーニの奇想曲を弾き始める。
高木和弘のバイオリンを聴きにいった。パガニーニの奇想曲5番と24番、サン=サーンスのワルツ・カプリス、ワックスマンのカルメン・ファンタジーなどキラキラした曲ばかり。
中でもショーソン作曲「詩曲」というのは、親友の妻に恋焦がれる音楽家が、旅の途中、中近東で妖術を習い、それを曲にして妻を寝取った挙句、夫に刺し殺される、というツルゲーネフの小説を曲にしたものだそうだが、これまた派手なもの。
さいわい、演奏者の軽妙な曲目解説のおかげで楽しく聴けた。
演奏が終わって外に出るとどんよりした雨模様。「妖術」にかけられて楽しんだひとときだった。