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春すぎて夏きたるらし…

 奈良県明日香村は、なだらかな山々に囲まれ、田畑のそばに小川が流れ、瓦屋根の家が建ち並ぶ、昔の日本人に懐かしさを感じさせるところだ。持統天皇の歌の天の香具山も、その時代は神聖な山だったというが、甘樫丘(あまかしおか)から眺めると、こんもりとした親しみやすい山にみえる。その、のどかな緑に囲まれたあちらこちらに、石舞台をはじめ亀石などの石の建造物や古墳がある。
 カビがはえ損傷がひどいので、保存のためはぎ取られたキトラ古墳の壁画「玄武」が公開されていた。玄武とは、亀と蛇が合体した「神獣」。けれど、照明を落としてガラスケースの中に陳列されているそれは、のびやかな自然の中に存在してこその神々しさと迫力を失って、単なる滅びかけた古代の美術品になってしまった痛々しい姿だった。