ターナー(Joseph Mallord William Turner,1775-1851)は、19世紀の英国の風景画家で、漱石の「坊っちゃん」にもその名が登場する。
どんよりとした雪空の下、「ターナー展」に出かけた。最初は、外と同じどんよりとした色調の英国の風景を描いた水彩画が並んでいてあまり気が乗らなかったが、年代順に見ていくうちに引き込まれた。
まず、イタリア旅行後の絵から色彩が華やかになってきた。北ヨーロッパの人々が、日光が降り注ぎ、歴史もあるイタリアに憧れた気持ちが分かるような気がする。
ヴァチカンからのローマの風景には、聖母子像を描くラファエロが描きこまれていた。ヨーロッパ旅行のスケッチブックには、風景が精密に描かれていた。
当時は、豚の膀胱に絵の具を詰めて持ち運んだそうで、その絵の具箱も展示されていた。1840年にチューブ入りの絵の具が発明されたが、まだ数色しか無く、そのうち黄色がターナーのお気に入りで、絵の具箱にも残っていたそうだ。
その後は、まぶしい光と荒々しい海が印象的な絵が多くなり、晩年は、細かい描写は無く、風景が色彩だけに置き換わったような、不思議な絵になっていった。未完成という説もあるが、とても現代的だった。印象派の先駆けと言われているそうだ。
18世紀後半、英国はナポレオンを破り、第一次産業革命を経て、ヴィクトリア朝に入るという黄金期を迎えていた。ターナーの絵にも、その時代の勢いが感じられた。
ターナー本人は、若くして才能を認められ英国第一の画家だったのに、私生活はとても秘密主義で、内縁の妻との間の娘の結婚式にも参列しなかったそうだ。現代の情報化社会では不可能なことだろう。