夏は鰻の季節。大好物というわけではないが、決まった店で一度は食べなくてはいけない気になる。
その店は、夕方五時になると暖簾がかかり、店の外まで蒲焼きの香ばしい匂いが漂っていた。丼や長焼きの他には、鰻巻き(うまき)を頼んだ。一人ずつラッキョウを添えた熱々の厚い一切れの後、残ればお土産になった。
小さいころは背伸びすると調理場が見えた。職人さんが、串を打った鰻を炭火で焼きながら、時々タレにどぼんと浸していた。そのとなりでは、溶いた黄色い玉子汁を四角い鉄の鍋で調子良くひっくり返しながら焼いていた。それが「うまき」つまり「鰻入り出し巻き」だと気がついたのは、かなり後だ。
一緒に行く家族も状況も変わったが、店の味は変わらない。これが伝統の店の良さだろう。