奈良の正倉院には、八世紀の聖武天皇と光明皇后ゆかりの品や、東大寺大仏開眼会(え)に使われた仏具などが収められている。毎年秋の正倉院展では、九千件ともいわれる宝物から六十件ほどが展示される。
今年は、蘭奢待(らんじゃたい)と呼ばれる香木があった。この名の中には「東大寺」という文字が隠されている。一見枯れ木風だが、織田信長や明治天皇が切り取ったといわれる跡が残っている。
赤銅柄香炉(しゃくどうのえごうろ)は、儀式などのとき僧が手に持って香を焚き仏を供養し室内を静める道具だそうだが、お雛様の三人官女のひとりが持つのに似ていた。
紅牙撥縷尺(こうげばちるのしゃく)は、象牙を染めて文様を彫った三十センチほどの物差しで、儀式に使われたらしい。赤の色が鮮やかで、鹿を追う虎や植物などが細かく細かく彫られている。
金銀鈿荘唐大刀(きんぎんでんそうのからたち)は、聖武天皇愛用の品で、白鮫の皮が巻かれ、透かし模様と宝石で飾られた金具の柄が美しい。どれも専門用語で名前が難しく、英語の説明の方が簡単で判りやすいことも多かった。