英国のSir Walter Scott作「Ivanhoe」は、アーサー王伝説、ロビンフッド伝承、シェイクスピアなど取り入れた中世騎士物語の古典である。
舞台は、12-13世紀イングランド。獅子心王リチャード一世が十字軍遠征で囚われの身になった隙に、王弟ジョンが王位簒奪を企てる不穏な世の中で、サクソンとノルマンの対立が続いている。
騎士の鍛錬と娯楽を兼ね、ジョンが盛大な槍試合を開いた折、個人戦、団体戦共にアイヴァンホーと名乗る騎士が勝ち、その名誉をサクソンの姫ロウィーナに捧げる。
アイヴァンホーは、実はサクソンの族長の息子だが、ノルマンのリチャードに仕える騎士になったため父から勘当されている。服装など文化が違うし騎士になると封土を献上しなくてはならないからだ。
アイヴァンホーが助け、又助けられたユダヤ人の高利貸しイサクは、キリスト教徒からもイスラム教徒からも嫌われ蔑まれているが、ジョンや修道院長や貴族に金を貸す大金持ちだ。シャイロックを彷彿とさせる。
もめ事は一対一の試合で解決する。ノルマンの騎士は、手袋を投げるのが挑戦のしるしで槍と剣を使う。サクソンは斧。森人は弓矢や六尺棒(quarter staff)を使う。
ロクスリー、実は伝説の義賊ロビンフッドが魅力的。弓の名手で、ヤナギの枝を立てたものを的にして、真ん中に命中させ枝を真っ二つに裂く。敵に対し「クリスマスのベーコンの塊に刺したクローブのように矢で串刺しにしてやる」の例えが面白い。バラッドでしか伝わっていないロビンフッドのイメージ形成に、この作品が影響を及ぼした。
リチャードは女嫌いの冒険好きで政治にはあまり興味がなさそう。王に対する作者の皮肉な視線も感じられる。
若い頃にサクソンの父兄を殺され、ずっと囚われの身となっているウルリカは火事を起こして復讐を果たすが、同世代の騎士は現役なのに「老婆」扱いなのが悲しい。ちなみに、その過酷な運命は、サトクリフ「ともしびをかかげて」のアクイラの妹フラビアも同じだが比べるとフラビアは幸せになった方ではないかと思われる。
ユダヤ人の高利貸しイサクの娘、美しいレベッカは、医薬の知識を持ち、テンプル騎士の求愛を拒絶し続けたため火あぶりの刑を宣告される。アイヴァンホーに槍試合で助け出されるが、その誇り高い姿が印象的。
「サクソンとノルマンが融合し英語が話されるのは、後のエドワード三世の時代である」で話は終わる。ノルマン優位だが、言語などにサクソン文化も交わってイングランドひいては現在の英国に繋がっていったのが良く分かる。
'Ivanhoe' Sir Walter Scott1819