正倉院には、8世紀の奈良時代の宝物が納められている。光明皇后が、東大寺大仏に献納した聖武天皇の遺愛品が始まりとされる。
今年の正倉院展で印象的だったのは、まず紫檀(したん)の琵琶。黒っぽい地に白や緑の鳥や花の模様があしらってある。弦の数は4本で、ギターくらいの大きさで、厚味はずっと薄い。
次に東大寺の法要で上演されたという伎楽(ぎがく)の呉女の面。しっかり山形の眉と、一重の目と、ふっくらした赤い唇で、なかなかいいお顔。能面などより親しみやすい。
東大寺に献納されたという金銀花盤は、大きな鹿の絵が浮き彫りになっていて、周囲が繊細なビーズ飾りで縁取られている。
中国の古典を写した「楽毅論」(がっきろん)は、光明皇后直筆だったが、他に、皇后の命で写経された経典も展示されていた。
当時は、写経がとても大事な仕事だったので、写経所という専門の部署があり、140数名が働いていたらしい。
文字を書く経生の給料は、40枚仕上げると布1端の割合。ただし誤字脱字ごとに減額される。例えば、誤字20字で紙1枚分だ。
それを校正する校生は、500枚仕上げると布1端。やはり、誤字脱字などを見のがすと減額になる。その基準はきっちり決められていてなかなか厳しい。
彼らには、食料も支給された。米、海藻、塩、酢、大豆、小豆、漬菜など、そして生野菜を買うための現金も。
そういったことが書かれた古文書が展示されていて、当時の官僚の生活が身近に感じられた。