funini.com こどもの本ほか 死の秘宝 第二十五章:貝殻荘

第二十五章:貝殻荘

ビルとフラーの家は、海を見晴らす崖の上に一軒だけ建っていた。家の壁には貝殻が埋めこまれ、しっくいが塗ってあった。それは人里はなれた美しい場所だった。ハリーが小さな家の中に入っても、庭にいても、絶えず、眠っている大きな生きものの息づかいのような潮の満ち引きの音が聞えた。彼は、それからの数日間、混みあった家を避ける言い訳をこしらえては、崖の上から見える開けた空と、広々とした何もない海をながめて、冷たい潮っぽい風が顔に当たるのを好んでいた。

ハリーは、杖のことでヴォルデモートと競争しないと決めたものの、それが悪かったかもしれないと、まだ恐れていた。これまで、「行動しない」という道を選んだことがなかったからだ。いっしょにいるとロンが、つい口にしてしまう疑いの気持ちが、ハリーの心の中にもいっぱいだった。

「ダンブルドアが、杖を手に入れるのに間にあうように、あの印のことを見つけだすことを望んでいたとしたら、どうだい?」「あの印を見つけだすことが、君が聖物を手に入れる『資格がある』という意味だとしたら、どうだい?」「ハリー、もしあれがほんとに上位の杖なら、いったいぜんたい僕たちは、どうやって例のあの人をやっつけることができるんだい?」

ハリーは答えられなかった。ときどき、ヴォルデモートが墓を暴くのを阻止しなかったのは、まったくの気ちがい沙汰だったのかもしれないと迷う瞬間があった。なぜ、それに反対したのか、満足がいくように説明できなかった。その結論にたっした内心の議論の過程をもう一度、思いかえそうとするたびに、ますます説得力がなくなってくるように思われた。

奇妙なことには、ハーマイオニーの支持が、ロンの疑いと同じように、彼をまごつかせるのだった。上位の杖が実在するということを受けいれなくてはならなくなった今、彼女は、それは邪悪な物体であって、ヴォルデモートが、それを手に入れた方法ときたら、ぞっとして考えられないわと言いつづけた。

「あなたは、そんなことができたはずないわ、ハリー」彼女は何度も言った。「ダンブルドアのお墓に侵入するなんて、できたはずない」

けれど、ハリーは、ダンブルドアの遺体よりも、生前のダンブルドアの意図を理解しそこなったかもしれないと思う方が、恐ろしかった。まだ、暗闇で手探りしているような気がして、進む道を選んではみたが、目印を読み損なったかもしれない、もう一方の道を取るべきではなかったかと考えて、ふりかえりつづけていた。ときおり、ダンブルドアに対する怒り、亡くなる前に説明してくれなかったという怒りが、また上から、家の下の崖に打ちつける波のように強烈にぶつかってきた。

「でも、彼は亡くなったのかい?」とロンが、そこについて三日目に言った。ハリーが、家の庭と崖との境の塀の上から向こうを見つめていると、ロンとハーマイオニーが、彼を見つけたのだ。彼らの議論に加わる気がまったくなかったので、二人がこなければよかったと思った。

「そうだよ、ロン、頼むから、また、蒸しかえさないでくれ!」

「事実を見ろよ、ハーマイオニー」とロンが、水平線を見つめつづけるハリーを越えて話しかけた。「銀の雌ジカ。剣。ハリーが鏡の中に見た目、ー」

「ハリーは、目は想像かもしれないと認めてるわ! そうでしょ、ハリー?」

「かもしれない」とハリーが、彼女を見ずに言った。

「でも、想像したとは思ってないんだろ?」とロンが尋ねた。

「うん、思ってない」とハリーが言った。

「そら見ろ!」とロンが、ハーマイオニーが続けられないように、すばやく言った。「もし、ダンブルドアでなかったら、僕たちが地下牢にいるのがどうやってドビーに分ったか説明しろよ、ハーマイオニー?」

「できないわ、ー、でも、ダンブルドアがホグワーツのお墓に眠っているとしたら、どうやってドビーをよこすことができたの?」

「分らない、彼の幽霊かもしれない!」

「ダンブルドアは、幽霊になって戻ってきはしない」とハリーが言った。ダンブルドアについて確信を持って言えることは、ほんの少ししかなかったけれど、それは、よく分っていた。「彼は、行きつづけるだろう」

「『行きつづける』って、どういう意味だよ?」とロンが尋ねたが、ハリーが何も言わないうちに、後ろから「アリー」と声がした。

フラーが、長い銀色の髪をそよ風になびかせて家から出てきた。

「アリー、グリプウックが話したいって。一番小さい寝室にいます。他の人に聞かれたくないからって」

ゴブリンが、彼女に伝言の走り使いをさせたので、彼女が頭に来ているのは明らかで、家に戻っていくとき、いらいらしているようだった。

グリプフックは、フラーが言ったとおり、家の三つの寝室のうち、ハーマイオニーとルナが夜寝ている、いちばん小さな部屋で待っていた。彼が、曇っているが光は明るい日なのに、赤い木綿のカーテンを引いたので、部屋が火のように輝いて、風通しがよくて明るい他の部屋と不調和だった。

「結論を出した、ハリー・ポッター」とゴブリンが、低い椅子に足を組んで座り、ひょろ長い指で腕をたたきながら言った。「グリンゴッツのゴブリンは、根本の裏切りとみなすだろうが、俺は、あんたを助けることに決めた、ー」

「「それはすごい!」とハリーが言いながら、安堵の気持ちがわき上がってくるのを感じた。「グリプフック、ありがとう、僕たち、ほんとうに、ー」

「ー、返礼に」とゴブリンが断固とした調子で言った。「報酬として」

ハリーは、少しあっけに取られて、ためらった。

「いくら欲しいのか? 金貨は持ってるけど」

「金貨ではない」とグリプフックが言った。「金貨は持っている」

その白い部分がない黒い目が、ぎらぎらと輝いた。

「俺は剣が欲しい。ゴドリック・グリフィンドールの剣が」

ハリーの舞いあがった気持ちが、急落した。

「それはだめだ」彼は言った。「すまない」

「それは、」とゴブリンが、そっと言った。「問題だな」

「何か他の物をあげる」とロンが熱心に言った。「レストレインジ家には、きっとどっさりあるさ。僕たちが金庫に入ったら、好きなものを取ればいい」

彼は、まずいことを言った。グリプフックが怒りでぱっと顔を赤くした。

「俺は、泥棒ではない! 俺に権利のない宝を手に入れることはしない!」

「剣は僕たちのものだ、ー」

「違う」とゴブリンが言った。

「僕たちは、グリフィンドール生だ。で、それは、ゴドリック・グリフィンドールの、ー」

「で、グリフィンドールのものであった前は、誰のものだったか?」とゴブリンが、背筋をのばして座り直し、強い口調で聞いた。

「誰のものでもないよ」とロンが言った。「それは彼のために作られたんだろ?」

「違う!」とゴブリンが、長い指をロンに突きつけ、怒りでけんか腰になって叫んだ。「また魔法使いの傲慢だ! その剣は、ラグヌク一世のものだったが、ゴドリック・グリフィンドールに取られたのだ! それは失われた宝、ゴブリン製の傑作だ! それは、ゴブリンのものだ! その剣が俺を雇う代金だ、取るか止すかだ!」

グリプフックは、彼らをにらみつけた。ハリーは他の二人をちらっと見て、それから言った。「もしよければ、僕たちは、これについて話しあわなくてはならない、グリプフック。数分間、待ってくれるか?」

ゴブリンは不機嫌そうにうなずいた。

下の、誰もいない居間で、ハリーは暖炉に向って歩きながら、額にしわをよせ、どうすべきか考えていた。その後ろでロンが言った。「彼は冗談を言ってるんだ。剣を渡すわけにはいかないよ」

「ほんとうか?」ハリーは、ハーマイオニーに尋ねた。「剣は、グリフィンドールが盗んだのか?」

「分らないの」彼女は絶望的な調子で言った。「魔法使いの歴史は、魔法使いが、他の魔法種族にしたことを書いてないことがよくあるから。でも、私が知ってるかぎりでは、グリフィンドールが剣を盗んだという記述はないわ」

「ゴブリンの作り話の一つだろ」とロンが言った。「魔法使いが、どうやって、いつも彼らの優位に立とうとしたかという話さ。彼が、僕たちの杖を一本よこせと言わなかったから運がよかったと思うべきだな」

「ゴブリンが、魔法使いを憎む正当な理由があるのよ、ロン」とハーマイオニーが言った。「彼らは、過去には残虐に扱われていたんだから」

「でも、ゴブリンは、実際、ふわふわした子ウサギちゃんじゃないだろ?」とロンが言った。「彼らは、魔法使いをどっさり殺した。戦い方が汚いし」

「でも、どっちの種族が不正で凶暴かと、グリプフックと言い争っても、彼が私たちを助ける気になるわけじゃないでしょ?」

その問題をめぐって、三人が方策を考えようとして、少し間があった。ハリーは、窓からドビーのお墓を見た。ルナが、墓石のそばのジャムの瓶にシー・ラベンダーの花を生けていた。

「よし」とロンが言ったので、ハリーが、ふりかえって、彼の方を見た。「これはどうだい? グリプフックに、僕たちは金庫の中に入るまで剣が必要だから、その後、渡すと言うんだ。あそこに、にせ物があるんだろ? 取り替えて、にせ物を渡すんだ」

「ロン、彼は、私たちより、本物とにせ物の違いをよく知ってるのよ!」とハーマイオニーが言った。「マルフォイ家で、剣が取り替えられたのが分ったのは、彼だけよ!」

「ああ、けど、彼が気がつく前に逃げだせるかも、ー」

彼は、ハーマイオニーの目つきで、おじけづいた。

「それは」彼女は静かに言った。「卑劣なことよ。助けを求めて、それから裏切るの? それなのに、あなたは、なぜゴブリンが魔法使いを嫌うか分らないの、ロン?」

ロンの耳が赤くなった。

「分った、分った! 僕が考えついたのは、それだけさ。だったら、君の解決法はどうなんだ?」

「他の物を、あげなくちゃだめよ。同じくらいの価値があるものをね」

「すばらしい。他のゴブリン製の剣を取ってくるから、贈り物用に包装してよ」

また、三人は沈黙した。ハリーは、ゴブリンが、きっと剣以外の何も、たとえ同じくらい価値ある物でも受けとらないだろうと思っていた。けれど、剣は、彼らにとってホークラクスに対する、欠くことのできない武器だ。

彼は、少しのあいだ、目を閉じて海のとどろきを聞いていた。グリフィンドールが剣を盗んだかもしれないという考えは不愉快だった。ずっとグリフィンドール生であることを誇りにしてきたのだ。グリフィンドールはマグル出身者の擁護者で、純血を愛するスリザリンと相反した魔法使いだった・・・

「きっと彼は嘘をついてるんだ」ハリーが、また目を開けて言った。「グリプフックのことだ。きっとグリフィンドールは剣を取らなかった。ゴブリン版の歴史が正しいと、どうして分る?」

「それで何か変わるの?」とハーマイオニーが尋ねた。

「僕が、どう感じるかが変わるのさ」とハリーが言った。

そして、深く息をすった。

「僕たちが金庫に入るのを手伝った後で、剣を取っていいと、彼に話そう、ー、だが、正確にいつ、取っていいかは、言わないように気をつけよう」

ロンの顔に、ゆっくりと笑いが広がった。けれど、ハーマイオニーは、ひどく驚いたようだった。

「ハリー、私たち、できないわ、ー」

「彼は、剣を取っていい」ハリーが続けた。「僕たちが、全部のホークラクスに、剣を使った後でだ。そのとき、必ず彼が剣を手に入れることができるようにする。約束する」

「でも、それ何年もかかるかもしれないわ!」とハーマイオニーが言った。

「分ってる、けど彼は、それが今は必要ない。僕は嘘はつかない・・・ほんとうだ」

ハリーは、挑戦的な気持ちと恥ずかしさが入り交じったまま、彼女と目を合わせた。そしてヌアメンガルドの門の上に彫ってあった「より大きな益のために」ということばを思いだしたが、その考えを押しやった。その他に、どんな道が選べるというのか?

「私、気にいらないわ」とハーマイオニーが言った。

「僕だって、それほど気にいってるわけじゃない」とハリーが認めた。

「あのう、僕は天才的だと思うな」とロンが、また立ちあがって言った。「彼に話しにいこう」

ハリーは、いちばん小さな寝室に戻って申し出たが、剣を渡す時期については、はっきりした期日を言わないように注意した。彼が話しているあいだ、ハーマイオニーは、しかめ面をして床を見ていた。ハリーは、彼女を見て、秘密が漏れるのではないかと、いらいらした。けれど、グリプフックは、ハリー以外の誰にも目を向けなかった。

「あんたの申し出に同意する、ハリー・ポッター。俺が手助けすれば、グリフィンドールの剣をくれるのだな?」

「そうだ」とハリーが言った。

「では、握手だ」とゴブリンが、手をさしだして言った。

ハリーは、その手をとって握手したが、ゴブリンが、ハリーの目の中に何か疑いの念を感じたか心配していた。それからグリプフックは、ハリーの手を放し、両手をぴしゃりと打ちあわせて言った。「では、始めよう!」

もう一度、魔法省に押し入る計画をたてるようなものだった。彼らは、そのいちばん小さな寝室で計画を練ることに決めた。そこは、グリプフック好みの、いくぶん暗く保たれた部屋だった。

「俺は、レストレインジ家の金庫は一度しか行ったことがない」グリプフックが彼らに語った。「にせの剣を置いてくるように命じられたときだ。そこは、もっとも古い部屋の一つで、いちばん奥底に家宝をしまっているのは、とても古い魔法使いの家柄だ。そこは、最も広く、最上の警備で守られている・・・」

彼らは食器棚のような部屋に、一度に何時間も閉じこもっていた。ゆっくりとした日々が過ぎ、何週間も過ぎた。次から次へと、越えなくてはならない問題があった。特に、ポリジュー薬が、ほんの少ししか残っていないのが問題だった。

「後、私たちのうち、たった一人分しか残ってないわ」とハーマイオニーが、泥のような魔法薬をランプの明かりに傾けながら言った。

「それで十分だ」とハリーが、グリプフックの手書きの、いちばん奥底の通路の地図を注意深く見ながら言った。

貝殻荘の他の住人は、ハリー、ロン、ハーマイオニーが、ほとんど食事時にしかあらわれないので、何か企てていると気がついていた。誰も尋ねなかったが、ハリーは、しばしばビルがテーブルで、考えこんだ心配そうな目つきで三人を見るのに気がついた。

ハリーは、いっしょに過ごす時間が長くなればなるほど、ゴブリンのことが好きになれなくなった。グリプフックは、思いのほか暴力を好み、劣った生きものが苦痛を受ける話に笑い、レストレインジ家の金庫に着くまでに、他の魔法使いを傷つける可能性があるのを喜んだ。ハリーは、きっと他の二人も同じようにゴブリンを嫌っていると思ったが、グリプフックが必要だったので、そのことは話さなかった。

グリプフックは、しぶしぶ他の人たちといっしょに食事をした。脚が治ってからも、まだ弱っているオリバンダーと同じように食事をお盆で部屋に運ぶように要求しつづけたが、ビルが、(フラーがぶち切れた後、)二階に上がって、もう、そうしつづけるわけにはいかないと言った。その後、グリプフックは、ぎゅうぎゅうのテーブルに加わったが、皆と同じものを食べるのを拒み、代りに、かたまりの生の肉と、根と、様々なキノコを出せと言いはった。

ハリーは責任を感じた。結局のところ、ゴブリンに質問できるように、むりやり貝殻荘に居残るようにさせたのは、自分なのだ。また、ウィーズリー家全員が、身を隠すばめになり、ビル、フレッド、ジョージ、ウィーズリー氏が、もう仕事に行けないのも自分のせいなのだ。

四月の荒れくるった天気の、ある晩、彼は、夕食の準備を手伝いながら、「ごめんなさい」とフラーに言った。「こんなふうに、あなたに面倒かけるつもりじゃなかったんだけど」

彼女は、グリプフックとビルのために、数本のナイフに、牛肉をこま切れにさせているところだった。ビルは、グレイバックに襲われてからというもの、血のしたたる肉が好きになっていた。ナイフが、彼女の後ろで、こま切れにする作業をしているあいだ、いらいらした表情が少し和らいだ。

「アリー、あなたは、私の妹の命を救ってくれたのよ。私、忘れないわ」

これは、厳密に言えば正しくなかったが、ハリーは、ガブリエルが、ほんとうに危険だったわけではないということを、彼女に思いださせるのは止めることにした。

「ともかく」フラーが話しながら、コンロの上のソースが入った鍋に杖を向けると、鍋はすぐ、ぐつぐつ煮えはじめた。「オリバンダーさんは、今夜ミュリエルの家に行くから、そうしたら少し楽になるわ。ゴブリンが、」彼女は、彼のことを言うとき少ししかめっ面をした。「一階に下りれば、あなたと、ロンと、ディーンがあの部屋を使えるわ」

「僕たちは、居間で寝るの気にしないよ」とハリーが言った。グリプフックがソファで寝るのを惨めだと思うのが分っていたが、彼が機嫌よくいるのが、計画にとって重要なことだった。「僕たちのことは心配しないで」そして、彼女が抗議しようとしたとき、彼は言った。「僕たちも、じきにあなたの世話にならなくなるから。僕とロンとハーマイオニーだけど。そんなに長く、ここにいないつもりだから」

「でも、それってどういう意味?」彼女は、顔をしかめてハリーを見た。杖を向けたキャセロールの料理は宙に浮いたままだった。「もちろん、あなたたちは、ここを出てはだめ。ここなら安全よ!」

彼女が、そう言ったとき、ウィーズリー夫人に似ていた。そのとき裏の扉が開いたので、ハリーは喜んだ。外の雨で髪がびしょ濡れのルナとディーンが、腕いっぱい流木を抱えて入ってきた。

「・・・それに、とっても小さな耳」ルナがしゃべっていた。「ちょっと、カバの耳みたいな、ってパパが言うの、紫色で毛が生えててね。彼らを呼びたときは、ハミングしなくちゃいけないわ。あまり速くないワルツが好きなの・・・」

ディーンが、いごこち悪そうに、ハリーに肩をすくめて、そばを通りすぎて、ルナの後から、食堂と居間がつながった部屋に入っていった。そこでは、ロンとハーマイオニーがテーブルに夕食の支度をしていた。ハリーは、フラーの質問から逃げだす、ちょうどいい機会だと思って、カボチャジュースの入った水差を二つ取って、彼らの後を追った。

「・・・それと、もし私の家に来ることがあったら、その角を見せてあげるわ。パパが、そのこと手紙に書いてきたんだけど、私は、デス・イーターにホグワーツ急行から連れてかれて、クリスマス休暇に帰ってないから、まだ見たことないの」ルナは、ディーンに言って、二人は暖炉の火に薪を継ぎたした。

「ルナ、言ったでしょ」ハーマイオニーが向こうから呼びかけた。「あの角は爆発したわ。あれは、ねじり角のスノーカックの角じゃなくて、エルンペントの角なの、ー」

「いいえ、あれは、ぜったいにスノーカックの角だったって」とルナが穏やかに言った。「パパが言ったわ。今までには、きっと元どおりになってるわ。ほら、ひとりでに元どおりになるんだから」

ハーマイオニーは首を横にふって、フォークを並べつづけた。ビルがオリバンダー氏を連れて階段を下りてきた。杖職人は、まだとても弱々しく、ビルの腕にすがりついていた。ビルは、彼を支え、大きな旅行カバンをさげていた。

「あなたがいなくなったら寂しいわ、オリバンダーさん」とルナが老人に近づいて言った。

「私もだよ」とオリバンダー氏が、彼女の肩をたたきながら言った。「あの恐ろしい場所で、君は私にとって計りしれないほどの慰めだったよ」

「さようなら、オリバンダーさん」とフラーが言って、両頬にキスをした。「ビルのミュリエルおばちゃんに、荷物を届けていただけないかしら? 彼女にティアラを返してないのよ」

「喜んで、」とオリバンダー氏が、小さくお辞儀をして言った。「あなたの親切なもてなしに対して私ができるほんのささやかなお返しだよ」

フラーがすり切れたビロードの箱を取りだして、開けて、杖職人に見せた。ティアラが、低く釣りさがったランプの光に照らされて、きらきら輝いていた。

「月長石とダイアモンド」と、ハリーが気づかないうちにこっそり部屋に入りこんでいたグリプフックが言った。「ゴブリンが作った、と思う」

「そして魔法使いが支払った」とビルが静かに言った。ゴブリンは、彼に、こっそり挑むような視線を投げた。

強い風が家の窓に吹きつけている夜の中を、ビルとオリバンダーが出かけた。残りはテーブルのまわりにぎゅうぎゅう詰めに座り、ひじをつきあわせ、ほとんど身動きできなかったが、食事を始めた。彼らの横の火格子の中で、暖炉の火がぱちぱち燃え、はぜた。フラーが、食べ物をつついているだけなのに、ハリーは気がついた。彼女は、数分おきに窓の外に目をやっていたが、彼らが最初の一皿を食べおわらないうちに、ビルが戻ってきた。その長い髪が風でもつれていた。

「すべて順調だ」とビルがフラーに言った。「オリバンダーは落ちついたよ。ママとパパがよろしくって。ジニーが愛してるって。フレッドとジョージはミュリエルをかんかんに怒らせてる。二人は、まだ奥の部屋でフクロウ便の通信販売をやってるんだ。でも、彼女はティアラが戻って喜んでいたよ。僕たちが盗んだと思っていたそうだ」

「まあ、あなたのおばちゃんって魅力的ね」と、フラーが機嫌を悪くして言った。そして杖をふって汚れた皿を空中に浮きあがらせ積み重ねて、それを捕らえて部屋から出ていった。

「パパがティアラを作ったのよ」とルナがかん高い声で言った。「ええと、というより冠だけど」

ロンはハリーの視線を捕らえてにやっと笑った。ロンが、ゼノフィリウスのところへ行ったときに見たこっけいな頭飾りを思いだしているのが、ハリーに分った。

「ええ、パパは、レイブンクローの、どこかにいっちゃった冠を再現しようとしてるわ。もう、何でできてるかの主な材料は分かったって。ビリーウィグの羽をつけ足せば、見違えるようになるって、ー」

玄関の扉をドンドンとたたく音がしたので、皆がそちらを向いた。フラーが台所から、恐そうに走ってきた。ビルが飛びあがって杖を扉に向け、ハリー、ロン、ハーマイオニーも同じようにした。グリプフックは、黙ってテーブルの下にすべりこんで姿を隠した。

「誰だ?」ビルが呼びかけた。

「私だ、リーマス・ジョン・ルーピンだ!」と吹きすさぶ風より大きな声が呼びかけた。ハリーは、恐怖で身震いをした。何が起きたのだろう? 「私は、人狼、ニンファドーラ・トンクスと結婚し、貝殻荘の秘密保持者の君が、この住所を教え、緊急の際には来るよう招いてくれた!」

「ルーピン!」とビルがつぶやき、扉のところに走っていって、さっと開けた。

ルーピンが敷居に倒れこんだ。青白い顔をして、旅行用マントに身を包み、白髪まじりの毛が風になびいていた。それから身をおこして、部屋の中を見まわし、誰がいるかを確かめてから、大胡で叫んだ。「男の子だ! テッドと名づけた、ドーラのお父さんの名を取って!」

ハーマイオニーが、かんだかい声で叫んだ。

「え、ー? トンクス、ー、トンクスが赤ちゃんを産んだの?」

「そうだ、そうだ、赤ん坊が産まれたんだよ!」とルーピンが叫んだ。テーブルのまわりの皆が喜びの叫び声をあげ、ほっとしたようにため息をついた。ハーマイオニーとフラーが二人で「おめでとう!」と、かんだかい叫び声をあげた。ロンが「すげえ、赤ちゃん!」と、今までそんなことを聞いたことがないかのように言った。

「そうだ、ー、そうだ、ー、男の子だ」とルーピンが、幸福で、ぼうっとしているように、また言った。そして、テーブルのまわりを回って歩いていって、グリモード街の地下室での場面は、なかったかのように、ハリーを抱いた。

そして、「名づけ親になってくれないか?」と、ハリーを離したときに言った。

「ぼ、ー、僕が?」と彼が、どもりながら言った。

「君だよ、もちろん、ー、ドーラも大賛成だ、こんなにふさわしい人は他に、ー」

「僕、ー、うん、ー、すごいや、ー」

ハリーは、圧倒され、びっくり仰天し、喜んでいた。ビルが、急いで葡萄酒を持っていて、フラーが飲んでいくようにルーピンを説きふせた。

「長居はできない、戻らなくては」とルーピンが、まわりのみんなににっこりと笑いかけながら言ったが、ハリーが知っているこれまでよりも、何才も若返ったように見えた。「ありがとう、ありがとう、ビル」

ビルが、全員のグラスを満たした。皆が立って、グラスをあげて乾杯した。

「テディ・リーマス・ルーピンに」とルーピンが言った。「大魔法使いの卵に!」

「誰に似てるの?」とフラーが尋ねた。

「僕は、ドーラに似てると思うけど、彼女は、僕似だと思ってる。髪は全然違うけどね。産まれたときは黒かったけど、一時間後には赤毛になった。きっと僕が戻る頃には金髪になってるさ。アンドロメダが言うには、トンクスの髪の毛も、産まれた日に色が変りはじめたそうだ」彼はグラスを飲み干した。ビルが、またグラスに注ぐと「ああ、それじゃ、もう一杯だけ頂こう」と、にっこり笑って言った。

風が小さな家に激しく吹きつけ、暖炉の火が、ぱちぱちと燃えあがった。まもなくビルは、葡萄酒をもう一本開けた。ルーピンの知らせは、みんなに心配事を忘れさせ、閉じこめられた状況から、しばらくのあいだ、解放されたかのような気にさせた。新しい命の誕生の知らせは、心おどるものだった。ゴブリンだけが、この突然のお祝い気分に影響を受けないようで、少したつと、一人じめいる寝室にこっそり引っこんだ。ハリーは、それに気づいたのは自分だけだと思っていたが、ゴブリンが階段を上っていくのを、ビルの視線が追っているのを見た。

「いや・・・いや・・・ほんとうに戻らなくては」と、とうとうルーピンが言って、葡萄酒のお代りを遠慮して立ちあがり、旅行用マントをはおった。「さよなら、さよなら、ー、数日以内に、写真を持ってくるようにするよ、ー、君たちに会ったと知ったら、皆、とても喜ぶだろう、ー」

そしてマントをしっかり着こみ、別れの挨拶をして、女性陣の肩を抱き、男性陣と握手をして、まだにっこり笑いながら風の吹きすさぶ夜の中に出ていった。

「名づけ親、ハリー!」とビルが言った。皆、台所に戻ってきて、テーブルの片づけを手伝っていた。「ほんとうに名誉なことだよ! おめでとう!」

ハリーが、運んでいた空のグラスを置いたとき、ビルが後ろの扉を閉めて、他の人たちが、ルーピンがいなくなったのに、まだ、お祝いを続けて、にぎやかにしゃべっている声を聞えなくした。

「実はね、ハリー、内々に話がしたいんだ。こんなに混みあった家で、その機会をとらえるのは難しいからね」

ビルは、ためらっていた。

「ハリー、君は、グリプフックと何か企んでいる」

それは、質問ではなく、結論だった。ハリーは、わざわざ否定もしなかった。ただ、ビルを見つめて、待ちうけていた。

「僕は、ゴブリンの性質を知っている」とビルが言った。「ホグワーツ卒業以来、グリンゴッツで働いているからね。魔法使いとゴブリンの間に友情が存在するかぎりは、僕には、ゴブリンの友人がいる、ー、というか、少なくとも、僕は、ゴブリンをよく知っているし、好きだ」ビルは、また、ためらった。「ハリー、君は、グリプフックから何を得たいのか、そして返礼として何を約束したのか?」

「それは言えない」とハリーが言った。「ごめん、ビル」

後ろで、台所の扉が開いた。フラーが、空のグラスを取りにこようとした。

「待ってて」ビルが彼女に言った。「少しだけ」

彼女は引っこみ、ビルがまた扉を閉めた。

「それなら、これを言わなくてはならない」ビルが続けた。「もし、グリプフックと取引をするはめに陥ったとして、それも特に宝物が関わる取引だとしたら、特別に警戒しなくてはならない。ゴブリンの所有、支払い、返済の概念は、人間の、それと同じではないからね」

ハリーは、体内で小さなヘビがもぞもぞするように、不快感が、かすかにうごめくような感じがした。

「それ、どういう意味?」ハリーは尋ねた。

「われわれは、違った種族について話しているんだ」とビルが言った。「魔法使いとゴブリンの商取引は、長年、緊張をはらんできた、ー、だが、それは皆、『魔法歴史』で知っていることだろう。両者に、悪い点があった。僕は、魔法使いが無実だったと主張するつもりはない。だが、ゴブリンの中には、魔法使いはゴブリンの所有権をまったく尊重しないから金と宝物については信用できない、と考える者がいる。グリンゴッツのゴブリンは最も、その傾向が強い」

「僕は尊重するよ、ー」ハリーが言いはじめたが、ビルが首を横にふった。

「君は分ってないんだ、ハリー、ゴブリンと、いっしょに暮らしてみないと、誰も分らないだろう。ゴブリンにとっては、どんな品物であっても、正当で真のもちぬしは、作り手であって、買い手ではない。ゴブリンの目から見れば、ゴブリン製の品物はすべて、合法的に彼らの物なのだ」

「でも、もし、それを買えば、ー」

「ー、すると、彼らは、支払った者に貸しだされたと思うのだ。けれど、彼らには、ゴブリン製の品物が魔法使いの手から手へ渡るという考えが、理解できない。ティアラが、目の前で渡されたときのグリプフックの目つきを見ただろう。彼は不満そうだった。あの種族で最も過激な者が考えるように、彼は、最初の買い手が死ねば、その品物は、ゴブリンの手に戻されるべきだと考えているのだと思う。彼らは、ゴブリン製の品物を、新たな支払いがないまま、魔法使いの手から手へ伝えていくわれわれの習慣を、盗みにすぎないとみなしているんだ」

ハリーは不吉な予感がしてきた。ビルは、見せかけている以上のことを推測しているのかもしれないと思った。

「僕が言えるのはこれだけだ」とビルが、居間に戻ろうとして扉に手をかけながら言った。「ゴブリンと約束するときは、よくよく注意しろ、ハリー。ゴブリンとの約束を破るより、グリンゴッツに押し入る方が、まだ危険じゃないだろうよ」

「分った」とハリーが言った。ビルが扉を開けた。「うん、ありがと。ぜったい忘れないようにするよ」

ハリーがビルの後から、他の人たちのところに戻ったとき、疑いなく、さっき飲んだ葡萄酒で酔ったせいで、皮肉な考えが浮かんだ。つまり、シリウス・ブラックがハリーにとって向こうみずな名づけ親だったように、ハリーもテディー・ルーピンにとって、同じ道を進みはじめたらしいということだ。