翼のあるかぶと

次の日は、たまたま、ダンとユナが「野生の午後」と呼ぶ時間だった。両親は、およばれに行ってしまったし、ブレイク先生は、自転車で遠乗りに出かけてしまったので、八時まで二人だけだった。

二人は、両親と先生を礼儀正しくお見送りした後、庭師からラズベリーをいっぱいのせたキャベツの葉をもらい、エレンから、外で食べるようにお菓子とお茶をもらった。二人は、つぶれないうちにとラズベリーを食べ、キャベツの葉は劇場を下ったところにいる三頭の牝牛と分けようと思った。けれど、途中でハリネズミが死んでいたので、埋葬しなくてはならず、その葉がとても役に立つので、無駄にすることができなかった。

それから、鍛冶場に行くと、生垣をつくるホブデンじいさんが、息子のビーボーイ(ミツバチ小僧)といっしょに家にいた。その息子は、少しまともでなかったが、素手でミツバチの群れをすくい取ることができた。ビーボーイは、二人にアシナシトカゲの詩を教えてくれた。

「もし、俺が見えるような目を持っていたら

どんな死すべき人間も、俺を困らせることはないだろうに」

彼らは、ミツバチの群れのそばでお茶を飲んだ。ホブデンは、エレンが持たせてくれたローフケーキは、亡くなった妻が焼いたのと同じくらいおいしいと言った。それから、野ウサギのワナに、ちょうどいい高さの針金の張り方を教えてくれた。二人は、ウサギ用のはもう知っていた。

それから、二人は、「長い溝」を登って「遠い森」の低地の端に行った。ここはヴォラテレの方の端より、もの悲しく暗かった。黒い水でいっぱいの泥炭土の穴があって、柳やハンノキの切り株のまわりに、毛のようにふさふさして樹液が垂れたコケが垂れ下がっていたからだ。けれど鳥たちは枯れ枝の上にとまり、ホブデンは苦い柳水は病気の動物たちの薬のようなものだと言った。

二人は、ブナの下生えの影にある切り倒されたオークの幹に座って、ホブデンがくれた針金を曲げていた。そのときパルネシウスを見た。

「あなたはなんて静かに来たんでしょう!」とユナが、横に移動して、座る場所を空けながら言った。「パックはどこ?」

「フォーンと俺は、君たちに、俺の話を全部聞かせるか、それとも話さないでおくかで議論していたのだ」と彼が答えた。

「もし彼が、起こったことを話しても、君たちには理解できないだろうと、俺は言っただけだ」とパックが、丸太の後ろからリスのように跳びあがって言った。

「私は、全部は分からないわ」とユナが言った。「でも小さなピクト人のことを聞くのが好きなの」

「僕が理解できないのは」とダンが言った。「マキシムスは、ずっと遠くのガリアにいたのに、どうしてピクト人について全部知っていたのかってこと」

「どこであっても皇帝になるほどの人間は、どこにいようと、あらゆることを知っていなくてはならないのだ」とパルネシウスが言った。「俺たちは、試合の後、マキシムスの口から、そういうことをたくさん聞いた」

「試合? 何の試合?」とダンが言った。

パルネシウスは片腕をぴんと張って突き出し、親指を地面に向けた。「剣闘士だ! そういう試合だよ」と彼が言った。「皇帝が、誰もが予期しなかったのに、防壁の東の端、セゲドゥヌムに着いたので、敬意を表して二日間の試合があった。そうだ、俺たちが彼に会った翌日、二日間の試合を催した。だが、最大の危険は、あわれな剣闘士たちではなく、マキシムスによって冒された。かつては、軍団は皇帝の前では、じっと黙っていた。俺たちは、そうしなかった! 彼の椅子が、群集のあいだをゆれながら運ばれるとき、防壁に沿って西の方に切れ目なく叫び声が聞こえた。駐屯軍が、彼のまわりで打ち騒いでいた - 不平を言ったり、おどけたり、給料の支払いや、部署の変更や、彼らの荒くれた頭に浮かんだことは何でも要求していた。その椅子は、波の中の小船のように浮かんだり沈んだりしていたが、もう沈むかと目を閉じた後、いつも浮かび上がってきた」パルネシウスは身震いした。

「彼らは、怒っていたの?」とダンが言った。

「檻の中のオオカミのあいだを、調教師が歩き回るときの、オオカミと同じようなものだ。もし、彼らに一瞬でも背中を向けるか、彼らの視線をとらえるのを一瞬止めれば、そのとき、防壁で別の皇帝があらわれたことだろう。そうではないか、フォーン?」

「そうだった。常に、そうだろう」とパックが言った。

「その夕遅く、皇帝の使いが呼びに来たので、俺たちは後について、勝利の神殿に行った。そこに、彼は、防壁の司令官、ルティリアヌスとともに滞在していたのだ。俺は、これまでほとんど司令官には会ったことがなかったが、ピクト人と狩りに行きたいとき、彼はいつでも許可してくれた。彼は大食漢で、アジア人の料理人を五人雇っていた。そして予言を信じる家系の出だった。俺たちが、部屋に入ったとき、うまそうなご馳走のにおいがしたが、テーブルには何もなかった。彼は、長いすに横になっていびきをかいていた。マキシムスは、勘定書の長い巻物のあいだに離れて座っていた。それから扉が閉まった。

「『君の部下が来たぞ』とマキシムスが司令官に言った。司令官は、痛風病みの指で、目の端を持ち上げ、魚のように俺たちをじっと見た。

「『彼らだと認めました、皇帝』とルティリアヌスが言った。

「『よろしい』とマキシムスが言った。『では聞くのだ! この若者たちが命じない限り、防壁の兵も武器も動かしてはならぬ。彼らの許可なしには、何もしてはならぬ。食べること以外はな。彼らが頭脳であり手足だ。君は胃袋だ!』

「『皇帝の御意のままに』と老人がうなるように言った。『もし私の給料と収益が下がらなければ、私の祖先の予言を、私の主人になさるがよい。ローマは、かつてはそうでした! ローマは、かつてはそうでした!』それから、彼は、寝るために向きを変えた。

「『彼の望みどおりになろう』とマキシムスが言った。『われわれは、私が必要なものに着手しよう』

「彼は、防壁の兵と備蓄品 - その日フンノの病院にいる病人にいたるまで - 全部の数を記した表をすべて開いた。おお、だが、俺たちの兵のうち最上の者 - 無能ななかで、ましな者たちを除外するよう、彼がどんどん印をつけていくので、俺はうめいた! 彼は、二塔分のスキタイ人、二つの北ブリテン補助隊、二つのヌミディア人歩兵隊、ダシアン騎馬隊すべてと、ベルギー部隊の半分を取り上げた。それは、ワシが死骸をあさるようなものだった。

「『さて次に、兵器はいくつあるか?』彼は、新しいリストをめくった。しかし、ペルティナクスが手のひらを開いて置いた。

「『いえ、皇帝』と彼が言った。『あまりに先まで神を誘惑してはなりません。兵または兵器を取るにしても、両方はいけません。さもないと、われわれは拒否します』」

「兵器?」とユナが言った。

「防壁の投石器だ - てっぺんまで12メートルある巨大なもので、たくさんの石や鍛えた矢を発射する。それには何ものも対抗できない。彼は、とうとう俺たちの投石器は置いていった。だが、情け容赦なく俺たちの兵のたっぷり半分以上を取っていった。彼が、リストを巻き終えたとき、俺たちは抜け殻だった!

「『皇帝万歳! われわれは死におもむく、あなたに挨拶を送る!(剣闘士の挨拶)』とペルティナクスが笑いながら言った。『もし、今、敵が防壁によりかかっただけでも、倒れるでしょうよ』

「『私に、アロが言っていた三年間をくれ』と彼が答えた。『そうすれば、自分で選んだ二万の兵を、ここに持たせてやろう。だが、今、それは賭けだ - 神々に対するゲームだ。賞金はブリテン、ガリア、それにおそらくローマだ。君たちは、私のがわで賭けるか?』

「『そうします、皇帝』と俺が言った。というのは、この人のような人に、これまで会ったことがなかったからだ。

「『よかろう。明日』と彼が言った。『私は、軍隊の前で君たちを防壁の大将に指名する』

「それで俺たちは月光の中へ出ていった。そこでは、試合の後の掃除をしていた。俺たちは、防壁のてっぺんにある大きなローマの市の女神の像と、そのかぶとの上の霜と、北極星をさしている槍を見た。見張りの塔に沿って、ちらちらゆらめく夜の火と、遠くになるにつれどんどん小さくなっていく黒い投石器の列を見た。それらのものを俺たちはうんざりするほど知っていた。だがその夜、それがとても見慣れないものに思われた。なぜなら翌日、俺たちが、その主人になると分かっていたからだ。

「兵たちは、その知らせを好意的に受け取った。だが、マキシムスが兵力の半分を連れて去ってしまい、俺たちはがらんとした塔に分散しなくてはならず、街の人たちは商売あがったりだとこぼし、秋の強風が吹いたとき - それは、俺たち二人にとって暗い日々だった。ここではペルティナクスは、俺にとって頼もしい右腕以上の存在だった。彼は、ガリアの田舎の大きな家々のあいだで生まれ育ったので、すべての者に呼びかける適切なことばを知っていた - ローマ生まれの百人隊長から、第三軍団の犬どもまで - リビア人のことだ。そして、彼は、すべての者に対し、相手が彼自身と同じくらい高潔の士であるかのように話しかけた。さて、俺は、どんなことを成さなくてはならないかを、とても強く理解していたが、物事は人を動かすことで達成されるものだということを忘れていた。それは俺の間違いだった。

「俺は、ピクト族については、少なくともその一年間は何も心配していなかった。だがアロが、翼のあるかぶとは、俺たちがいかに弱いか証明するために防壁のどちらの岸からでも、まもなくやってくるだろうと警告していた。そこで俺は急いで準備をした。何事も早すぎるということはない。俺は、精鋭部隊を防壁の両側に移動した。そして投石器を覆って見えなくして岸に沿って配備した。翼のあるかぶとは、吹雪の前に - 一度に十から十二隻の小型の船で - 風向きによってセゲドゥヌムかイトゥマの岸へ、乗り入れてくるだろう。

「さて、舟が上陸するときは帆を巻き上げなくてはならない。もし乗組員が帆の下に集まるまで待てば、その獲物の船の中に一網分の石を放つことができる。(鍛えた矢は帆布を切り裂く。)すると船は転覆し、海がふたたびすべてをきれいに洗い流してくれる。数人は岸にたどりつくかもしれないが、ごくわずかだ・・・ それは困難な仕事ではなかったが、砂や雪が吹きつける中、岸で待たなくてはならなかった。そうやって、その冬、俺たちは翼のあるかぶとをやっつけた。

「早春に、東風が皮をはぐ刃のように吹きつけたとき、彼らは、またセゲドゥヌムの沖に、たくさんの船で終結した。アロの話では、彼らは、おおっぴらな戦いをして防壁の塔を奪うまでは、休まないだろうということだった。確かに彼らは広々としたところで戦った。俺たちは、彼らをやっつけるのに丸一日かかったが、長い一日だった。そしてすべて終わったとき、一人が、乗っていた船の残骸を避けて海に飛び込んで、岸に向かって泳ぎだした。俺は待っていた。すると、波が彼を、俺の足元に倒してよこした。

「俺がかがむと、彼が、俺のと同じ金属を身につけているのが分かった」パルネシウスは片手を首元に上げた。「だから、彼が口が聞けるようになったとき、俺は、ある種の質問をしたが、それには、ある決まったやり方で答えなくてはならなかった。彼は、必要なことばで答えた - それは、俺の神、ミトラスの教義のグリフォンの位に属することばだった。俺は、彼が立ち上がれるまで、俺の盾をかざしてやった。分かるように、俺は小柄ではないが、彼は俺より頭一つ高かった。彼が『これから、どうする?』と言った。『留まるなり去るなり、あんたの好きなように、兄弟よ』と俺が言った。

「彼は、波の向こうを見やった。投石器の射程範囲圏外に、無傷の一隻が残っていた。俺は、投石器を調べ、彼は、手を振ってその船を呼び寄せた。船は、猟犬が主人のところに来るようにやってきた。船がまだ岸から百歩離れているときに、彼は髪をさっと後ろに振り上げ、泳いでいった。乗組員が、彼を引っぱり上げ、船は去った。ミトラスを崇拝する者はたくさんいて、すべての種族にわたっていることを、俺は知っていた。だから、そのことについては、それ以上深く考えなかった。

「一ヵ月後、俺は、馬を数頭連れたアロに会った - パンの神殿でだ、おおフォーンよ - すると彼が、サンゴの飾りがついたとても大きな金の首飾りをくれた。

「最初、俺は、それは街の商人からの賄賂かと思った - ルティリアヌスに渡してほしいという意味の。『いや』とアロが言った。『これはアマルからの贈り物だ。おまえが岸で命を助けた翼のあるかぶとだ。あんたは立派な男だと、彼が言っていた』

「『彼も立派な男だった。俺は贈り物を身につけると、彼に言ってくれ』俺は答えた。

「『おお、アマルは若いばか者だが、分別がある人間のような口をきく、おまえたちの皇帝は、ガリアで大仕事をしているので、翼があるかぶとは、彼の友人になりたがっている、というより、彼の部下の友人になりたがっている。彼らは、おまえとペルティナクスが彼らを勝利に導いてくれると思っている』アロは、俺を、不吉な鳥、片目のワタリガラスのように見た。

「『アロよ』と俺が言った。『あんたは石臼の上下の石のあいだの麦粒だ。両方が公平に挽くなら、それでよしとしろ。両方のあいだに、ぐいと手を突っ込むのはよせ』

「『俺が?』とアロが言った。『俺は、ローマも翼のあるかぶとも同じように嫌いだ。だが、もし翼のあるかぶとが、いつか、おまえとペルティナクスが、彼らと組んでマキシムスに刃向かおうとすると考えるなら、おまえたちが考えるあいだ、彼らは攻めてはこないだろう。俺たちに必要なのは時間だ - おまえたちと俺とマキシムスにな。俺に、翼のあるかぶとに対して色よい返事を持たせてくれ - 彼らに会議を終わらせるための何かをだ。俺たち異邦人は、皆似ている。俺たちは、一人のローマ人が言うことについて夜の半分、議論するのだ。それで?』

「『俺たちには兵がいない。俺たちは、ことばで戦わなくてはならん』とペルティナクスが言った。『アロと俺に任せろ』

「そこで、もし翼のあるかぶとが俺たちに戦いをしかけないのなら、俺たちは戦いをしかけないという返事を、アロは翼のあるかぶとに伝えた。彼らは、(海で兵を失うのに少し嫌気がさしていたのだと、俺は思う)休戦に同意した。アロは、嘘が大好きな馬の商人なので、マキシムスがローマに対して反乱を起こしたように、いつか俺たちがマキシムスに対し反乱を起こすということも、きっと彼らに言ったのだと思う。

「実際、俺が、その季節に穀物船をピクト人に送るため北を通ったとき、彼らは船が通るのを攻撃せず許可した。それで、ピクト人は、その冬、食料がたっぷりあった。ピクト人は、ある意味、俺の子どもたちなので、俺は喜んだ。防壁には、二万人の兵しかいなかった。俺は、何度もマキシムスに手紙を書いて、俺の昔の部下、北ブリテン軍のうち一歩兵隊だけでも送ってほしいと強く頼んだ - こいねがった。彼は、手放してくれなかった。ガリアで勝利するためには、彼らが必要だったのだ。

「それから、マキシムスがグラティアヌス帝を打ち破り、殺害したという知らせが届いたので、もう彼は安全に違いないと思った。それで、また兵を送ってほしいという手紙を書いた。彼の返事がきた。『ついに私が子犬のグラティアヌスに恨みを晴らしたのが、君に分かるだろう。彼が死ぬ必要はなかったが、彼は混乱し、気がおかしくなった。皇帝たるものが、そうなるのはまずいことだ。私が、二頭のラバだけを御するのに満足していると、君の父に伝えてくれ。もし私の司令官の息子が、私を破滅させる運命にあると考えていなければ、私は、ガリアとブリテンの皇帝のままでいるだろう。それから、私の二人の子どもたちよ、君たちは、やがては必要なだけの部下をすべて取ってもよい。さしあたっては、何も与えることはできない』

「彼の司令官の息子ってどういう意味?」とダンが言った。

「司令官テオドシウスの息子、ローマ皇帝テオドシウスのことだ。昔のピクト戦争のときに司令官テオドシウスの下で、マキシムスは戦った。司令官テオドシウスとマキシムスは互いに嫌っていたが、グラティアヌスが、息子のテオドシウスを東の皇帝にしたとき(少なくとも俺はそう聞いたが)、マキシムスは次世代との戦いを再開続行した。それがマキシムスの運命だったし、それが彼の没落だった。だが、テオドシウス帝はよい人間だ。俺は知っている」パルネシウスは少しのあいだ黙って、それから話を続けた。

「俺は、マキシムスに返事を書いた。俺たちは防壁で平和だが、もう少し兵力と投石器があれば、もっとうれしいとな。彼からの返事は『君たちは、私の勝利の影の下で、もう少し生きながらえなくてはならぬ。テオドシウスの息子が何を意図しているか、私に分かるまでな。彼は、私を兄弟皇帝として迎えるかもしれぬ。さもなくば軍を準備しているかもしれぬ。どちらの場合も、当面は兵力を割くわけにはいかぬのだ』

「でも、彼はいつだってそう言ってたわ」とユナが叫んだ。

「その通りだ。彼は弁解はしなかった。だが、彼が言ったように、彼の勝利のおかげで、長い長いあいだ、防壁では何ももめごとはなかった。ピクト人は、ヒースの荒野の中の彼らの羊のように太ってきていた。そして、ほぼ同数の俺の兵たちは、武器の訓練をしっかりしていた。そうだ、防壁は強固にみえた。俺としては、いかに俺たちが弱いかを知っていた。もしマキシムスが負けたという偽りのうわさが、翼のあるかぶとの中に流れたなら、彼らは本気でやってくるかもしれない。そのときは - 防壁は壊されるに違いない! 俺は、ピクト人のことは、まったく気にしていなかったが、この数年間で、翼のあるかぶとの強さについて、いくらか分かった。彼らは日に日に強さを増していた。だが、俺は兵力を増やすことはできなかった。マキシムスは、俺たちを残してブリテンを空にしていった。俺自身は、腐った棒を持って壊れた垣根の前で、雄牛たちをひっくり返すために立っているような気がした。

「このようにして、友よ、俺たちは防壁の上で暮らしながら、マキシムスが決して送ってこない兵を待って - 待って - 待っていた。

「やがて、彼は、テオドシウスに対して兵を挙げる準備をしていると知らせをよこした。彼の知らせを - 俺たちの兵舎でペルティナクスは俺の肩越しに読んだ:『私は三頭のラバを御するか、さもなくば彼らにばらばらに引き裂かれるよう運命に命じられていると、君の父親に伝えてくれ。一年以内に、息子のテオドシウスを永久にやっつけるつもりだ。そうすれば、君にブリテンを、ペルティナクスには、もし彼が望むならガリアを支配させてやる。今日、私は、君たちが私とともにいて、補助部隊をびしびし訓練して仕上げてくれたらいいがと強く望んでいる。どうか、私が病気だというどんなうわさも信じないようにしてくれ。老体に少し悪いところがあるが、ローマに迅速に早駆けするうちに直るだろう』

「ペルティナクスが言った:『マキシムスがやられる。彼は、希望を失った者のように書いている。俺が希望を失った人間だから、それが分かる。その巻物の最後に、彼は何を付け加えているのだ? 『ペルティナクスに言ってくれ。私は、彼の、先のおじ、上級行政長官に会った。おじは、彼の母の遺産について極めて正直に説明した。私は、ふさわしい護衛をつけて、彼の母を気候が温暖なニケア(南仏のニース)に送った。彼女は、英雄の母だから』

「『それが証拠だ』とペルティナクスが言った。『ニケアは、海から行けば、ローマからそれほど遠くない。ニケアの婦人は、戦時には、船を借りてローマに逃げ戻れる。そうだ、マキシムスは、自分の死を予見している。だから、約束を一つずつ実行している。だが俺は、おじが彼に会って嬉しいよ』

「『今日は君は悪い方へ考えるのか?』と俺が尋ねた。

「『俺は真実を考えるのだ。神々は、俺たちが彼らに反して演じてきた劇に飽き飽きしている。テオドシウスはマキシムスを滅ぼすだろう。もう終わりだ!』

「『それを、マキシムスに書き送るのか?』と俺が言った。

「『俺が何と書くか見るがいい』と彼は答えてペンを取り、日の光のように陽気で、女が書くように優しく、冗談でいっぱいの手紙を書いた。俺でさえ、彼の肩越しに、それを読んで慰められた ー だが、それは彼の顔を見るまでだった!

「『そして今』と彼は、手紙に封をしながら言った。『俺たち、二人は死んだも同然だ、兄弟よ。神殿に行こう』

「俺たちは、しばらくのあいだミトラスに祈った。そこで、俺たちはこれまでも多くの時間祈ってきた。その後、何日も何日も、悪いうわさの中で暮らしているうちに、また冬が来た。

「それは、ある朝、俺たちが東の岸に馬で行ったときのことだった。浜で、金髪の男が、壊れた板につかまって凍えかけているのを見つけた。彼をあお向けると、ベルトの留め金から、彼が東の軍団のゴート人であるのが分かった。突然、彼は目を開き、大声で叫んだ。『彼は死んだ! 手紙は俺が持っていたが、翼があるかぶとが船を沈めた』彼は、そう言って、俺たちの手の中で死んだ。

「俺たちは、誰が死んだかとは尋ねなかった。俺たちには分かっていた! 俺たちは激しい雪になる前に、フンノへ急いで馬を走らせた。アロが、そこにいるかもしれないと思ったのだ。彼が、もう俺たちの厩にいるのを見つけた。俺たちの顔つきで、俺たちが何を聞いたか、彼には分かった。

「『それは、岸のテントの中だった』と彼は、ことばを詰まらせながら言った。『彼は、テオドシウスに打ち首にされた。彼は、おまえたちに手紙を送った。殺されるのを待っているあいだに書いていたのだ。翼のあるかぶとが船を待ちぶせして、それを取った。知らせは、ヒースの荒野のあいだを火のように駆け巡っている。俺を責めるな! もはや俺は部族の若い者を抑えられん』

「『俺たちの部下についても同様だと言えるよ』とペルティナクスが笑いながら言った。『だが、神よ誉むべきかな、彼らは逃げ出すことはできない』

「『おまえたちは、どうする?』とアロが言った。『俺は、命令 - 伝言をたずさえてきた - 翼のあるかぶとからだ。おまえたちが部下とともに彼らに加わり、ブリテンを略奪しながら南下せよというのだ』

「『それは悲しい』とペルティナクスが言った。『だが、俺たちは、それを止めるために、ここに駐留しているのだ』

「『もし、俺が、そんな答えを持ち帰ったら、彼らは俺を殺すだろう』とアロが言った。『俺は、いつも翼のあるかぶとに、マキシムスが倒れたら、おまえたちは反乱を起こすだろうと請合ってきた。俺は - 俺は、彼が倒れるとは思わなかったのだ』

「『ああ! 俺の気の毒な異邦人よ』とペルティナクスが、まだ笑いながら言った。『まあ、あんたは俺たちに、とても良いポニーをたくさん売ってくれたから、あんたを、その友人の元に放り出すわけにはいかない。あんたは使者だが、囚われ人にしよう』

「『そうだ、それが最上だろう』とアロが、端綱(はづな)を差し出して言った。彼は年老いていたので、俺たちは、彼を軽く縛った。

「『まもなく翼のあるかぶとは、あんたを探しに来るはずだ、そうすれば俺たちは、なおさら時間がかせげる。時間かせぎをすれば、どれほど足止めをくわせられるか見るがいい!』とペルティナクスが縄をしばりながら言った。

「『いや』と俺が言った。『時間は、助けになる。もしマキシムスが囚われているあいだに、俺たちに手紙を書いたのなら、テオドシウスは、それを運ぶ船を出したにちがいない。もし彼が船を送ることができるなら、兵も送ることができる』

「『それが、俺たちにどういう役に立つ?』とペルティナクスが言った。『俺たちは、マキシムスに仕えているのだ、テオドシウスにではない。たとえ、何らかの神々の奇跡で南にいるテオドシウスが、兵を送って、防壁が救われても、マキシムスが死んだことに変わりはない』

「『俺たちに問題なのは防壁を守ることだ。どの皇帝が死のうが、皇帝を死なせようが問題ではない』と俺が言った。

「『皇帝の問題は、哲学者である君の兄にふさわしいな』とペルティナクスが言った。『俺自身は、希望を失った人間だから、厳粛でばかばかしいことは言わない! 防壁を、奮起させよう!』

「俺たちは、防壁の端から端まで武装した。俺たちは将校たちに話した。マキシムスが死んだといううわさがあるから、翼のあるかぶとが押し寄せるかもしれないが、たとえ、それが事実だとしても、テオドシウスがブリテンのために援軍をよこすだろう。だから、われわれは結束して立ち上がらなくてはならないと・・・ 友よ、人が悪い知らせに、どのように耐えるかということを見るのは、何よりふしぎなことだ! それまで最も強かった者が最も弱い者になり、最も弱かった者が、いわば、背伸びをして、神から強さを盗み取る。俺たちの場合もそうだった。だが、わが友、ペルティナクスは、冗談と礼儀と努力によって、それに続く年月、弱い兵たちを精魂込めて鍛えた - そして俺が可能だと思った以上の成果をあげた。俺たちの、第三の - リビア人の歩兵隊でさえ、泣き言を言わずに、詰め物をあてた胴よろいを身に着けて立っていた。

「三日後に、翼のあるかぶとの七人の首長と長老たちがやって来た。その中に、俺が岸で会ったあの背の高い男、アマルがいた。彼は、俺の首飾りを見てほほえんだ。彼らは使者だったので、俺たちは彼らを出迎えた。俺たちは、アロが生きているが縛られているのを見せた。彼らは、俺たちがアロを殺したと思っていたので、彼の状態を見ても、彼らが怒ることはなかった。アロも、彼らが怒らないのを見て、それを怒った。それからフンノの俺たちの兵舎で会議に入った。

「彼らは、ローマは倒れかかっているから、俺たちが彼らに加わるべきだと言った。彼らは、貢物を取り立てた後、南ブリテン全部を、俺が統治するようにと申し出た。

「俺は答えた。『少し待て。この防壁は、略奪品のように量って分けられるものではない。俺の司令官が死んだという証拠をくれ』

「『いや』と長老の一人が言った。『彼が生きているという証拠を出せ』そして別のものが抜け目なく言った。『もし彼の最期の手紙を読んだら、何をくれる?』

「『俺たちは、商談している商人ではない』とアマルが叫んだ。『その上、俺は、この男に命を助けてもらった恩義がある。彼に証拠を見せるのだ』彼は、俺にマキシムスからの手紙を放ってよこした。(俺は、その封印をよく知っていた。)

「『俺たちは、これを、俺たちが沈めた船から奪った』と彼が叫んだ。『俺は読めないが、少なくとも、俺が信じられる一つの印は分かる』彼は、手紙の外側の黒っぽいシミを指し示した。それが、雄々しいマキシムスの血であると、俺は重い心で認めた。

「『読め!』とアマルが言った。『読め! それからおまえが、どちらに仕えるのか言ってくれ!』

「その手紙をざっと見た後、ペルティナクスが、とても静かに言った。『俺が、全部読もう。聞け、異邦人よ!』そして、読んだ。その手紙を、それ以来、俺は、ふところの奥にしまって持ち歩いている」

パルネシウスは、折りたたんだ汚れた羊皮紙を、首元から引き出して、抑えた声で読み始めた。

「『防壁の大将にふさわしい者たち、パルネシウスとペルティナクスへ、かつてガリアとブリテンの皇帝であり、現在はテオドシウスの野営地の海岸で死を待つ囚われの身であるマキシムスより - 挨拶と別れを!』

「『じゅうぶんだ』と若きアマルが言った。『それが証拠だ! さあ、あんたたちは、俺たちに加わるべきだ!』

「ペルティナクスが長いあいだ黙って彼を見つめたので、その金髪の男は少女のように顔を赤らめた。それからペルティナクスは読んだ。

「『私は、一生のあいだに、私に害を及ぼしたものに対し、喜んで害を与えてきた。だが、もし君たち二人に害を与えたとしたら、私は激しく後悔し、許しを請う。私が骨折って御することを望んだ三頭のラバは、君の父親が予言したとおり、私をばらばらに引き裂いた。抜き身の剣が、私に死を与えようとして天幕の扉のところで私を待ち受けている。私がグラティアヌスに与えた死だ。それゆえ、君たちの総督であり、皇帝である私は、君たちを、私に対する奉公からの、自由で名誉ある解任を与える。君たちは、私に対し、金や地位からでなく、私を愛してくれたから奉公してくれたと信じるからであり、それを思うと私は心が温まるのだ!』

「『太陽の光に賭けて』とアマルが割って入った。『これは、ある意味での立派な人間だ! 俺たちは、彼の部下にたいし、見誤っていたかもしれん!』

「そして、ペルティナクスは読み続けた。『君たちは、私が求めた時間をくれた。もし、私が、それを巧く使えなかったとて、嘆くな。われわれは、神々に対し、とても立派に賭けをしたが、神々が有利なサイコロの目を持っていて、私は罰金を払わなくてはならない。私がいたことを覚えていてほしい、だが、ローマはあるし、これからもあり続けるだろう。ペルティナクスに、彼の母はニケアで安全であり、その財産は南仏のアンティポリスの長官が管理していると、伝えてくれ。君の両親によろしく伝えてくれ。その友情は、私にとって実り多いものであった。私の小さなピクト人と、翼のあるかぶとにも、彼らの鈍い頭でも理解できるように、私の以下の伝言を伝えてくれ。私は、今日、君たちに三軍団を送った。すべてが順調にいけば届くだろう。私を忘れないでくれ。われわれは、ともに働いた。さらば! さらば! さらば!』

「さて、これが俺の皇帝の最後の手紙だった」(パルネシウスが手紙を元のようにしまうとき、カサカサいう音が子どもたちに聞こえた)

「『俺は、見損なっていた』とアマルが言った。『このような男の部下は、剣を交える以外、何も売ろうとはしないだろう。俺はそれを喜ぶ』そして、俺に手を差し出した。

「『だが、マキシムスは、あんたを解任した』と長老の一人が言った。『あんたたちは、自分が好きな誰に仕えようと - 支配しようと、自由だ。加われ - 後を追うな - われらに加われ!』

「『礼を言おう』とペルティナクスが言った。『だが、マキシムスが、あんたたちに伝言を伝えるようにと、われわれに言った - 失礼ながら、彼のことばを使えば - あんたたちの鈍い頭でも理解できるようにな』そして、準備された投石器の台座に続く扉を指さした。

「『分かった』と長老の一人が言った。『防壁は、相当な犠牲を払っても勝つにちがいない、ということだな?』

「『悲しいことだが』とペルティナクスが笑いながら言った。『だが、そうだ、防壁は勝つにちがいない』そして、彼らに最高級の南部産葡萄酒をふるまった。

「彼らは飲んで、黄色のあごひげを黙ってしごき、立ち上がって出て行った。

「アマルが、伸びをしながら(彼らは異邦人なので)言った。『俺たちは、好敵手だ。雪が解ける前に、どれほどの者がワタリガラスやサメに生まれ変わるだろう』

「『テオドシウスが送ってくるもののことを考えた方がよいぞ』と俺が答えたので、彼らは笑ったけれど、俺の偶然の一撃のひとことを心配しているのが分かった。

「アロじいさんだけが、少し後ろでぐずぐずしていた。

「『分かっただろう』と彼が、目をぱちぱちさせながら言った。『俺は、彼らの手先の犬でしかない。俺が、彼らに沼地を渡る秘密の道を教えたら、彼らは、俺を犬のように蹴飛ばすだろうよ』

「『それなら、俺なら、その道を急いで教えないようにする』とペルティナクスが言った。『ローマが防壁を守れないと確信するまではな』

「『おまえは、そう思うのか? ああ、悲しいかな!』と老人が言った。『俺は、俺の部族が平和であってほしいだけなのだ』そして彼は、雪の中、背の高い翼のあるかぶとの後を、よろめきながら出て行った。

「このようにして、ゆっくりと一度に一日ずつ戦いがやってきた。それは疑っている軍団にはとてもよくないことだった。最初、翼のあるかぶとは、以前にやったように海から押し寄せてきた。それを、俺たちは以前にやったように出迎えた - 投石器でだ。彼らは、それに嫌気がさしていた。だが、長いあいだ、彼らは自分たちのがに股の足では陸上でうまく戦えないと信じ込んでいた。そして、小さなピクト人は、部族の秘密を明かすことになったとき、ヒースの荒野の中のすべての道を教えるのを、恐れるか恥じるかしたのだと思う。俺は、これをピクトの囚われ人から知った。彼らは、俺たちの敵であると同じくスパイでもあった。翼のあるかぶとが、彼らを抑圧し、冬のたくわえを奪ったからだ。ああ、おろかな小さい人々よ!

「それから、翼のあるかぶとは防壁の両端から大挙して現れはじめた。俺は、南部に急使をやって、ブリテンではどんな知らせがあるか知ろうとした。だが、その冬、かつては軍隊がいたが今は見捨てられた駐屯地でオオカミが暴れまわっていたので、誰も戻ってこなかった。防壁ではポニーの餌にも困っていた。俺は十頭、ペルティナクスも同じだけ飼っていた。俺たちは、鞍の中で暮らし、東へ西へ乗っていき、乗りつくしたポニーは食料にした。街の人々も、厄介の種だったので、俺は、フンノの裏の一区画に彼ら全員を集めた。俺たちは、防壁の両側を壊して、最後の砦にした。部下たちは、密集した隊形の方がよく戦った。

「二ヶ月目の終わりには、人が積雪や夢にどっぷり漬かるように、俺たちは、戦争にどっぷり漬かっていた。眠りの中でも戦っていたと思う。少なくとも、防壁の上に行き、ふたたび下りてきたのは覚えているが、その間のことは何も覚えていない。ただ、命令を与えるために声はがさがさで、剣が使われた痕跡があるのが分かった。

「翼のあるかぶとは - まとまって攻めてきて、オオカミのように戦った。彼らは最も痛手をこうむったところで、最も激しく突っ込んできた。これは守り手の防壁にとって厳しいものだった。だが、それは、彼らがブリテンに押し寄せてくるのを防いでいた。

「当時、ペルティナクスと俺は、バレンシアに続くレンガのアーチ型の入り口のしっくいの壁に、塔の名前と一つずつ、それが落ちた日を書いていた。何か記録を残したいと思ったのだ。

「そして戦いは? 戦いは常に、ルティリアヌスの家の近く、大きなローマの市の女神の像の左右で最も激しかった。太陽の光に賭けて、俺たちがまったく重きをおいていなかったあの太った老人は、進軍ラッパの音の中で、ふたたび若返った! 彼の剣は神託だと、彼が言ったのを覚えている! 『神託に伺いを立てよう!』と彼は言って、刀の柄を耳に当て、頭をさかしげに振ったものだ。『そして、この日はルティリアヌスが生きるのを許されている』と言って、上着をたくし上げ、息を切らし、あえぎながら激しく戦ったものだ。おお、防壁の上では、食料の代わりに、冗談がたっぷりあった!

「俺たちは、二ヶ月と七日間耐えた - 常に三方から小さな場所に追い込まれていた。援軍が迫っていると、数回、アロが伝えてよこした。俺たちは、それを信じなかったが、それで部下は元気づけられた。

「終わりは、喜びの叫び声とともにではなく、休息のように、夢の中のように、やってきた。翼のあるかぶとが、ある晩、そして次の日、突然、俺たちを平穏で静けさの中に残して去ったのだ。それは、精魂使い果たした者たちには、あまりに長かった。俺たちは、最初は、起こされるのを覚悟で、軽く寝た。それから、それぞれ横になった場所で丸太のようにぐっすり眠った。もう、あれほどの睡眠を必要とすることがないように! 俺が目覚めたとき、防壁の塔は、武装した見慣れない兵でいっぱいだった。彼らは、俺たちがいびきをかいて寝ているのをじっと見ていた。俺は、ペルティナクスを起こし、俺たちは一緒にさっと立ち上がった。

「『何だ?』ときれいな甲冑の若者が言った。『君たちは、テオドシウスに対して戦うのか? 見るがいい!』

「俺たちは、北の方、赤い雪の向こうを見渡した。いや、翼のあるかぶとはいなかった。南の方、白い雪の向こうを見渡した。すると、強力な二つのワシの軍団が野営しているのが見えた。東と西には、炎と戦いが見えたが、フンノの近くは、すべて静かだった。

「『もはや厄介ごとはない』と若者が言った。『ローマの腕は長い。防壁の大将たちはどこだ?』

「俺たちは、自分たちがそうだと言った。

「『だが、君たちは年老いて、白髪だ』と彼が叫んだ。『彼らは若者だとマキシムスが言ったのに』

「『はい、数年前には、それはほんとうだった』とペルティナクスが言った。『われわれの運命はいかに? 立派で栄養十分な少年よ?』

「『私は、アンブロシウスと呼ばれている。皇帝の秘書官だ』と彼が答えた。『アクイレイラ(アドリア海沿岸のローマ時代の都市)の天幕で、マキシムスが書いた手紙を見せてくれ。そうすれば、君たちを信用しよう』

「俺は、手紙をふところから取り出した。彼が、それを読むと、敬礼して言った。『君たちの運命は、君たちの手の中にある。もしテオドシウスに仕えることを望むなら、軍団が与えられる。もし故郷に帰りたいなら、凱旋式を挙行しよう』

「『俺は、風呂と葡萄酒とひげそりと石鹸と油と香水の方がいいな』とペルティナクスが笑いながら言った。

「『ああ、君が若いことが分かった』とアンブロシウスが言って、『そして、君は?』と俺の方を向いた。

「『われわれは、テオドシウスに何の恨みもいだいてはいない。だが戦争においては -』と俺が言い始めた。

「『戦争においては、恋愛においてと同じだ』とペルティナクスが言った。『恋人が良かれ悪しかれ、人は、自分の最上の心を、ただ一人に捧げる。それが捧げられた後は、捧げるにせよ奪うにせよ、次に価値あるものなど残ってはいない』

「『それは真実だ』とアンブロシウスが言った。『私は、マキシムスが死ぬ前に、そのそばにいた。彼は、テオドシウスに、君たちがテオドシウスに仕えはしないだろうと警告した。率直に言って、私は、私の皇帝にとって残念に思う』

「『彼は、心を慰めるのにローマがあるさ』とペルティナクスが言った。『われわれを故郷に返して、この臭いを鼻腔から追い出せるように、お願いする』

「それでもやはり、凱旋式は行われたのだよ!」

「ふさわしく報われたわけだ」とパックが、泥炭土の穴の静かな水面に葉を数枚投げ入れながら言った。子どもたちが見ていると、葉のまわりに黒く油っぽい輪がくるくると広がっていった。

「僕、知りたい、ああ、すごくたくさんのことを」とダンが言った。「アロじいさんはどうなったの? 翼のあるかぶとは、戻ってきたの? アマルはどうしたの?」

「五人の料理人を連れた太って年取った司令官はどうなったの?」とユナが言った。「それに、あなたが帰ったとき、お母さんは何て言ったの?・・・」

「あんたたちが、この古い穴に長く居座りすぎていると言うだろうよ、もうこんなに遅いのに」と後ろからホブデンじいさんの声がした。「しっ!」と彼がささやいた。

そして、じっと立っていた。二十歩も離れていないところに、すばらしい雄ギツネが後足で立って、古い友だちであるかのように、子どもたちを見つめていた。

「おお、レノルズ様、レノルズ様よ」とホブデンが小声で言った。「もし、おまえさまの頭ん中のことを全部、知ったなら、知るに値することが分かるだろうに。ダン坊ちゃんとユナじょうちゃん、ちっちゃい鶏小屋の鍵を閉めるあいだ、一緒に来なされ」


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