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瀬戸内の旅

 広島県東部、福山市の鞆(とも)の浦は、瀬戸内海沿岸の中ほどに位置し、海に浮かぶ島々の向こうに四国を望む。古くから「潮待ちの港」として栄え、大伴旅人が歌を詠み、江戸時代から北陸や北海道と大阪を物資を積んで行き来した北前船が出入りし、幕末には坂本龍馬率いる海援隊の商船「いろは丸」が遭難後、上陸した。
 福山の北から、井原(いばら)鉄道の一両編成の電車が、山陽本線と平行に東の方、倉敷の北まで走る。
 途中の駅、岡山県井原は、絵本「11ぴきのねこ」(馬場のぼる作)で、ねこたちが大きな魚を寝かしつけるために歌う子守歌「ねんねこさっしゃれの発祥の地。
 そこから東に向うと旧山陽道沿いの駅、矢掛(やかげ)に着く。ここは、江戸時代の参勤交代の大名などの宿泊所、「本陣」「脇本陣」の屋敷が、当時のままに残る。宿泊する大名は、寝具、風呂桶、台所用具、食器、保存食糧などすべて持参し、生鮮食品だけ宿場町で現地調達した。一方、宿場町側は、最低限の宿賃は受け取るものの持ち出しが多く、又、幕府の使いは宿賃無しで泊まる決まりで経済的に大変だった。特に本陣は、よほどの資産家でないとやっていけず、ここ石川家は、昭和まで続いた富裕な造り酒屋だったので、屋敷が現在まで残ったそうだ。
 鞆(とも)の海そして、井原(いばら)線沿いの山と田、共に過ぎ去った賑やかな歴史を忘れさせる穏やかでのどかな風景が広がり、海や緑を渡る凉風が心地良く、時間がゆったりと流れていた。