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「The Ship that Flew」

ピーターが買った小さな船は、実は北欧神話に登場する魔法の船だった。折りたたんでポケットに入るほど小さいのに、この世のどこへでも、そして過去の時代のどこへでも、何人でも連れて行ってくれる。同時に、髪や肌の色や服装もその時代に相応しく変わり、ことばも通じるようになる。ピーター以下、四人兄妹が望んだ行き先は、母が入院している病室の他は、北欧神話の神々の住みかや、ノルマン征服時代のイングランド、古代エジプト、ロビンフッドの時代と、いかにも当時のイギリスの子どもたちが興味を持ちそうなところだ。

「バイユーのタペストリー」は、ノルマンディー公ウィリアムのイングランド征服を刺繍で描いた作品だが、以前はウィリアムの妻マチルダが寄進したとも伝えられていた。物語の中では、そのマチルダを名付け親に持つ少女マチルダが現代(ピーター兄妹の時代)にやって来る。彼女は、自分の時代に父が建てた石造りの教会が古びながらも残っているのを見て、その修繕費用を集めるバザーに、得意の刺繍の小袋を作って出品する。12世紀の古い刺し方で、今作られたばかりの素晴らしい作品に、現代の人たちは驚き、競りの値段が釣り上がっていく。

本筋には関係ないのだが、二人のご婦人が競りをする場面で、一人が「○○ポンド!」と値段を言うと、もう一人は「ギニー!(Guineas!)」とだけ言う。この作品が書かれた1939年に、まだ謝礼などに使われていたギニー金貨(Guineas)は、ポンドの1.05倍の価値だったので、そう言うだけで値段を釣り上げる意味になったわけだ。

また、「black eye」に、「殴って黒あざになる」と文字通り「黒い瞳」をかけたり、「Middle Ages(中世)」と「middle-aged(中年)」を間違えたりするところは訳せない面白さだ。

「The Ship that Flew」by Hilda Lewis(1939)