記事一覧

正倉院展

アップロードファイル 136-1.jpg

 奈良国立博物館に、第60回正倉院展を見にいった。
 まず1400年前にササン朝ペルシアでつくられ、シルクロードを運ばれてきた白瑠璃(はくるり)の椀が輝いていた。ようするにカットグラスだが、お酒を入れたらさぞ美しかったことだろう。大阪の古墳から副葬品として発掘された同時代の白瑠璃の椀も展示してあったが、こちらは、土がついて輝きも失せ、いかにも古代のものだった。二つ並べて井上靖の「玉椀記」を思い出した。
 ほかには、丸太のような香木とか、当時の貴族が腰にアクセサリとして組みひもでぶら下げていたビー玉のような水晶玉やサイの角でつくった小さな魚とか、当時は珍しかった椰子の実に楽しい顔を描いたものとか、貝殻に竹の柄をつけたスプーンや刃の幅が2センチくらいの鉄の包丁などの調理道具とか、様々なものが展示されていた。正倉院には、貴重品だけでなく日用品などいろいろ収められていたようだ。
 古文書も、写経や最古の戸籍など、たくさん展示されていたが、ありとあらゆる文書が保管されているらしい。おもしろかったのは、写経所に勤めていた人たちが病気や姑の葬儀などで休むための休暇願いだった。当時から勤め人は大変だったようで奈良時代人を身近に感じた。
 ところで、「正倉」とは、大切なものを収める倉をあらわす一般名詞で、それが集まったものが正倉院だそうだ。8世紀なかばに完成したが、今は校倉造(あぜくらづくり)の正倉一つしか残っていない。とにかく1200年以上前に収められた品々の保存状態の良さには驚かされる。聖武天皇と、その死後、光明皇后の時代にできたものだが、その後、道長や信長が宝を見に訪れ、家康は建物の修理もしたそうだ。明治時代には、今日展示されていた螺鈿(らでん)細工の鏡や、黒柿の板でつくられた厨子などの修理もされている。正倉院に収められたものは、代々の為政者が残そうと努力して今日まで伝わってきたのだとつくづく思った。