ハリーポッターと混血のプリンス
・第二十一章 知ることのできない部屋
ハリーは、次の週ずっと、ほんとうの記憶をくれるようにスラグホーンを説得するにはどうしたらいいかと頭を悩ませたが、いい考えは何も思いつかなかった。そこで、困ったことがあるたびにやっていることを、やる羽目になる回数が、最近ますます増えてきた。つまり、これまで何度もしていたように、プリンスが何か役に立つことを余白にメモしていてくれないかと期待して、魔法薬の本を熱心に読むのだ。
「それ見たって、何も書いてないわよ」ハーマイオニーが、日曜の夜遅くに、断固とした口調で言った。「もう言わないでよ、ハーマイオニー」ハリーが言った。「プリンスの本がなかったら、ロンは今ここに座っていなかったかもしれないんだからね」
「あなたが一年生のときにスネイプの授業をちゃんと聞いてれば、座ってたでしょうよ」ハーマイオニーが見下げるように言った。
ハリーは、そのことばを無視した。ちょうど新しい呪文(セクトゥムセンプラ!)が、「敵に対して」という引きつけられることばの上の余白に走り書きしてあるのを見つけたところだった。その呪文を試してみたくてむずむずしていたが、ハーマイオニーの前では、やらない方がいいと思って、代わりに、そのページの端をこっそり折っておいた。
三人で、談話室の暖炉のそばに座っていたが、他にまだ起きているのは同級生の六年生たちだけだった。夕食から戻ってきたときに、掲示板に新しく「姿あらわし」の試験日が発表されていたので、その夜早いうちから、とても興奮していたのだ。最初の試験日の四月二十一日より前、またはその当日に十七歳になる生徒たちは、補講を申し込むことができた。それは(厳重に監督された上で)ホグズミードで行われることになっていた。
ロンはこの掲示を読んで、おたおたしていた。まだ、姿あらわしができるようになっていないので、試験に間に合わないかもしれないと心配していた。ハーマイオニーは、もう二度、姿あらわしするのに成功していたので、もう少し自信がありそうだった。しかしハリーは、まだ四ヶ月たたないと十七歳にならなかったので、準備ができていてもいなくても、試験が受けられなかった。
「でもさ、少なくとも君は、姿あらわしできるじゃないか!」ロンが、ピリピリした感じで言った。「七月になっても何の悩みもないだろうよ!」
「一度、できただけだよ」ハリーが、思い出させてやった。この前の授業のときに、やっとのことで、姿くらましして、輪の中に現れることができたのだ。
ロンは、姿あらわしについて、大声であれこれ心配して長い時間をむだにしたあげく、今度は、スネイプが出した、ひどく難しいレポートを書こうと悪戦苦闘していた。ハリーとハーマイオニーは、もう書き終わっていたが、ハリーは、自分のレポートが、きっと低い点しかもらえないだろうと予想していた。デメンターに立ち向かうための最善の方法について、スネイプと意見が違っていたからだが、気にしていなかった。スラグホーンの記憶が最も重要な課題だった。
「言っとくけど、ばかなプリンスは、その点では、あなたを手助けすることはできないと思うわ、ハリー!」ハ―マイオニーが声を大きくして言った。「誰かを、あなたの思い通りにさせるのには、たった一つのやり方しかないの。それは『支配の呪い』だけど、違法だから――」
「ああ、分かってるよ、ありがと」ハリーが、本から目を上げないで言った。「だから、何か違うことを探してるんじゃないか。ダンブルドアは、自白剤は役に立たないって言ってたけど、他に何かあるかもしれない。魔法薬とか呪文とか・・・」
「取っかかり方が、間違ってるんじゃないの」ハーマイオニーが言った。「記憶を手に入れることができるのは、あなただけだとダンブルドアが言うのなら、他の人ではできないとこで、あなたがスラグホーンを説得できるって意味に違いないわ。魔法薬をこっそり飲ませるって問題じゃないと思うの。それだったら誰にだってできるもの」
「『belligerent(交戦中の)』って、どんなスペル?」ロンは、羊皮紙をじっと見ながら羽ペンをとても激しく振っていた。「B-U-Mなんてことないよね」
「ええ、違うわ」ハーマイオニーが言いながら、ロンのレポートを引き寄せた。「『augury(前兆)』も、O-R-Gでは始まらないし。どんな羽ペンを使ってるの?」
「フレッドとジョージのスペルチェックペンだよ・・・でもきっと、まじないの効き目がなくなってきたんだ・・・」
「ええ、絶対そうよ」ハーマイオニーが、レポートの題名を指さした。「だって、質問は、どのようにして『Dementor(デメンター)』に対処するかであって、『Dugbog(掘られた便所)』じゃないもの。それに、あなたが、名前を『Roonil Wazlib(ルーニル・ワズリブ)』と変えたなんて知らないわ」
「わー、いけね!」ロンが、ぞっとしたように羊皮紙を見つめた。「これ全部、また書き直さなくちゃならないなんて言わないでよ!」
「大丈夫よ、直せるから」ハーマイオニーが言って、ロンのレポートを自分の方に引き寄せ、杖を取り出した。
「僕、君のこと大好き、ハーマイオニー」ロンが言いながら、また椅子に沈み込むように座って、疲れた様子で両目をこすった。
ハーマイオニーの顔が、ほんのりピンク色に染まったが、こう言っただけだった。「そんなこと言うの、ラベンダーに聞かれないようにしなさいよ」
「そうするよ」ロンが両手で口を覆って言った。「ていうか、聞かれるようにしようかなあ・・・そうすりゃ、彼女が、僕のこと振ってくれるもん・・・」
「別れたいのなら、なぜ君が振らないの?」ハリーが尋ねた。
「君だって振ったことないだろ?ロンが言った。「君とチョウは、ただ――」
「ぶっ壊れたようなもんだね、うん」ハリーが言った。
「僕とラベンダーの間も、そうなるといいのになあ」ロンが憂うつそうに言いながら、ハーマイオニーが、黙って杖の先でレポートのスペル間違いの単語を軽くたたくのを見ていた。すると、その単語はページの上で、ひとりでに正しいスペルに直った。「でも、別れたいとほのめかすと、もっと固く抱きついてくる。巨大イカとつき合ってるようなもんだよ」
「ほら」およそ二十分後、ハーマイオニーが、ロンのレポートを返した。
「ほんとに、ありがと」ロンが言った。「結論を書くのに、君の羽ペン借りてもいい?」
ハリーは、これまでのところ混血のプリンスの書き込みで、役に立ちそうなことは何も見つからなかったので、あたりを見回した。シェーマスが、スネイプとその宿題を呪いながら寝室に行ったところだったので、談話室に残っているのは、三人だけだった。聞こえるのは、火のパチパチはぜる音だけだった。ロンが、ハーマイオニーの羽ペンを使ってデメンターについて最後の一段落を走り書きしていた。ハリーが、ちょうど混血のプリンスの本を閉じて、あくびをしたとき――
ポン
ハーマイオニーが小さな叫び声を上げた。ロンが、インクをレポート一面にこぼしてしまった。そしてハリーが言った。「クリーチャー!」
ハウスエルフが低くお辞儀をして、自分の節くれだったつま先に話しかけた。
「ご主人が、マルフォイ少年が何やってるか定期的に報告してほしいと言ったから、クリーチャーは来た――」
ポン
ドビーが現れて、クリーチャーと並んだが、ティーポットカバーの帽子が、ゆがんでいた。
「ドビーも手伝った、ハリー・ポッター!」キーキー声で言いながら、クリーチャーを怒ったような目つきで見た。「クリーチャーは、いつハリー・ポッターに会いに行くかをドビーに言うべきだ。そしたら二人一緒に報告できる!」
「これは何なの?」ハーマイオニーが尋ねたが、二人が急に現れたので、まだびっくり仰天しているようだった。「どうなってるの、ハリー?」
ハリーは、ハーマイオニーに、クリーチャーとドビーにマルフォイを尾行させたことを話していなかったので、答える前にためらった。ハーマイオニーにハウスエルフのことを話すのは、いつも、とても難しいことだった。
「その・・・二人は、僕のためにマルフォイを尾行していたんだよ」ハリーが言った。
「昼も夜も」クリーチャーがしわがれ声で言った。
「ドビーは一週間寝なかった、ハリー・ポッター!」ドビーが誇らしげに言ったが、立っている場所で、ぐらぐらしていた。
ハーマイオニーは憤慨したようだった。
「あなた寝てないの、ドビー?でも、ほんとに、ハリー、あなた、ドビーに言わなかったんでしょ――」
「うん、もちろん、そんなこと言わなかった」ハリーが急いで言った。「ドビー、寝ていいんだよ、分かった?でも君たちのどっちかが何か見つけた?」ハーマイオニーが、また邪魔しないうちに、急いで尋ねた。
「マルフォイ坊ちゃんは、その純血さにふさわしく高貴な態度で行動している」クリーチャーが、すぐにしわがれ声で言った。「女主人様のすばらしい顔立ちに似ていて、ふるまいは――」
「ドラコ・マルフォイは悪い子だ!」ドビーが怒ってキーキー声で言った。「悪い子だ。あの子は――あの子は――」
そして、ティーポットカバーの飾り房のてっ辺から靴下の先まで身震いした。それから暖炉の中に飛び込もうとするかのように走っていった。ハリーは、これを、まったく予想しなかったわけではないので、途中で、しっかり捕まえた。数秒間、ドビーはもがいていたが、それからぐんにゃりとなった。
「ありがとう、ハリー・ポッター」あえぎながら言った。「ドビーは、まだ昔の主人を悪く言うのが難しい・・・」
ハリーは、ドビーを放してやった。ドビーはティ―ポットカバ―をまっすぐにして、挑むようにクリーチャーに言った。「けど、クリーチャーは知るべきだ。ドラコ・マルフォイはハウスエルフに、いいご主人でない!」
「ああ、君がマルフォイに恋してることは聞かなくてもいい」ハリーがクリーチャーに言った。「あいつが、実際にどこに行ってたか、話を進めてくれ」
クリーチャーは怒り狂ったようだったが、またお辞儀をしてから言った。「マルフォイ坊ちゃんは、大広間で食べる。地下室の寮で寝る。授業に出る。いろいろなクラスの――」
「ドビー、君が話して」ハリーが、クリーチャーの話をさえぎって言った。「あいつは、どこか、行ってはいけない場所に行った?」
「ハリー・ポッターさま」ドビーがキーキー声で言った。大きな球のような目が暖炉の火を受けてきらめいた。「マルフォイ少年は、ドビーが見つけられるとこでは規則は破ってない。でも、跡をつけられないようにしてる。いろんな生徒たちと、しょっちゅう八階に行く。中に入ってる間、その子たちが見張りをしてる――」
「要求に応じて出てくる部屋だ!」ハリーが言いながら「魔法薬製造:上級」で額を強くぴしゃりと打った。ハーマイオニーとロンが見つめていた。「あいつが、こそこそ行ってたのは、あそこだ!あいつが何かやってる・・・何にしろ、やってる場所は、あそこだ!だから、地図から姿を消してたんだ――考えてみると、あの地図の上で、『要求に応じて出てくる部屋』を見たことないもの!」
「きっと盗人たちは、あの部屋があるのを知らなかったんじゃないかな?」ロンが言った。
「それが、あの部屋の秘密の一部なんだと思うわ」ハーマイオニーが言った。「もし、必要があれば、あの部屋は、他人が悪事を企むことができないようにするのよ」
「ドビー、何とか部屋に入り込んで、マルフォイが何をやってるか見たの?」ハリーが熱心に尋ねた。
「いいえ、ハリー・ポッター。それはできない」ドビーが言った。
「そんなこと、ないよ」ハリーが、すぐに言った。「マルフォイは、去年僕たちの本部に入り込んだもの。だから、僕だって簡単に入り込んで、こっそり見張ることができるさ」
「でも、私は、そうは思わないわ」ハーマイオニーがゆっくり言った。「マルフォイは最初から、ばかなマリエッタが、べらべらしゃべったから、私たちがあの部屋をどうやって使っているか正確に知っていて、DAの集まりの本部になる部屋が必要だったから入り込めたのよ。でも、あなたは、マルフォイがあの部屋に入るとき、何をしてるのか知らないから、あの部屋に何に変わるように頼んだらいいのか分からないでしょ」
「何か近づく方法があるんじゃないかな」ハリーが、その考えは受け入れないというように言った。「すばらしく、よくやったよ、ドビー」
「クリーチャーも、よくやったわ」ハーマイオニーが優しく言った。しかしクリーチャーは感謝するとは程遠く、その巨大な血走った目をそむけ、天井に向かってしわがれ声で言った。「穢れた血が、クリーチャーに話している。クリーチャーは聞こえないふりをしてやる――」
「出て行け」ハリーが鋭く言った。するとクリーチャーは最後に深くお辞儀をして、姿くらましをした。「君も行って、少し寝なよ、ドビー」
「ありがとうございます、ハリー・ポッター!」ドビーが幸せそうにキーキー声で言った。そして姿を消した。
「すごく、よかったよね?」ハリーが、部屋にハウスエルフがいなくなった瞬間、ロンとハーマイオニーの方を向いて興奮して言った。「マルフォイが、どこに行ってるか分かったもの!もう、あいつを追いつめてやる!」
「ああ、すごいね」ロンが、むっつりと言いながら、さっき、インクでびしょ濡れになった、もう少しで完成しそうだったレポートだったものの固まりからインクを拭い取ろうとしていた。ハーマイオニーが、それを自分の方に引き寄せ、杖でインクを吸い取り始めた。
「でも、マルフォイが『いろんな生徒たち』と、そこに行くってどういうこと?」ハーマイオニーが言った。「その計画に、何人が加わってるのかしら?やってることを知らせるほど信用してる人が、たくさんいるとは思えないし・・・」
「うん、それは怪しい」ハリーが顔をしかめながら言った。「あいつがクラブに言ってるのを聞いたんだ。自分がやってることはクラブには関係ないって・・・だから、こういうことを言って・・・」
ハリーの声は次第に小さくなっていった。そして暖炉の火を見つめていた。
「いやあ、僕は、ばかだった」静かな口調で言った。「分かりきったことじゃない?地下室には、あれの大おけがあった・・・授業中にいつだって盗むことができたはずだ・・・」
「何を盗むの?」ロンが言った。
「ポリジュース薬だよ。あいつは、スラグホーンが最初の授業で見せたポリジュース薬を盗んだんだ・・・たくさんの、いろんな生徒たちがマルフォイのために見張りに立っていたわけじゃない・・・いつものようにクラブとゴイルだけなんだ・・・ああ、それで、すべてつじつまが合う!」ハリーが、飛び上がって、暖炉の前を行ったり来たりし始めた。「あの二人は、ばかだから、マルフォイが何をやるつもりなのか話そうとしなくたって、命令された通りにする・・・でもマルフォイは、二人が『要求に応じて出てくる部屋』の外をうろつき回っているのを見られたくなかった。だからポリジュース薬を飲ませて、別の子のように見せたんだ・・・あいつがクィディッチの試合を見にいかなかったとき、僕が一緒にいるのを見た二人の女の子――へっ!クラブとゴイルだったんだ!」
「つまり、あなたが言うには」ハーマイオニーが、そっと言った。「私が秤を直してあげた、あの小さな女の子が――?」
「ああ、もちろん!」ハリーが大声で言って、ハーマイオニーを見つめた。「もちろん!あのときマルフォイは、部屋の中にいたに違いない。だから彼女――僕、何言ってんだろ?――彼だよね、彼は秤を落として、マルフォイに、外に人がいるから出てこないようにと知らせたんだ!それに、ヒキガエルの卵を落とした女の子もいたよ!僕たち、いつも、そばを通り過ぎてたのに、気がつかなかったんだ!」
「マルフォイが、クラブとゴイルを女の子に変身させてたの?」ロンが、げらげら笑った。「とんでもないや・・・あいつら、どおりで最近、機嫌が悪そうだと思ったよ・・・もう止めさしてくれって言わないなんて驚くよ・・・」
「ええと、あの二人は言わないよ、そうだろ。もしマルフォイが自分の闇の印を見せたんなら」ハリーが言った。
「うーん・・・闇の印が、あるかどうかは分からないけど」ハーマイオニーが疑わしげに言って、ロンの乾いたレポートを、これ以上、危害が加わらないようにくるくると丸めて手渡した。
「そのうち分かるよ」ハリーが自信たっぷりに言った。
「ええ、そうね」ハーマイオニーが、立ち上がって伸びをした。「でもハリー、あなたが浮かれすぎないうちに言うけど、中で何をやっているか分からないうちは、やっぱり『要求に応じて出てくる部屋』には入れないと思うわ。それに、忘れちゃいけないのは」肩に鞄をかけて、とても真剣な目つきで見た。「あなたが集中すべきことは、スラグホーンから記憶を手に入れるってことよ。おやすみなさい」
ハリーは、少しむっとしながらハーマイオニーが行くのを見ていた。女子寮へ通じる扉が閉まるとすぐに、ロンの方を向いた。
「君はどう思う?」
「ハウスエルフみたいに、姿くらましできるようになりたいよ」ロンが、ドビーが消えた場所を見つめながら言った。「そしたら、姿あらわしの試験、絶対合格だ」
ハリーは、その夜よく眠れなかった。何時間にも思われる間、寝つかれずに横になったまま、マルフォイが『要求に応じて出てくる部屋』をどんなふうに使っているのか、そして翌日ハリーが入っていったら、何が見られるのか考えていた。ハーマイオニーが何と言おうと、マルフォイがDAの本部を見ることができたのなら、自分も、きっとマルフォイのを見ることができるに違いないと思っていたのだ・・・それは、いったい何だろう?会合の場所?隠れ家?物置?作業場?ハリーの心は、せわしなく働き、やっと眠りについたとき、夢の中では、マルフォイの姿が、スラグホーンに変わり、それがスネイプに変わって、壊れ、心がかき乱された・・・
翌朝、ハリーは、朝食の間、期待に満ち溢れていた。闇魔術の防衛術の前に自由時間があったので、それを『要求に応じて出てくる部屋』に入ろうと努力することに使おうと決心していた。ハーマイオニーは、その部屋に押し入ろうとする計画をささやくと、むしろ、これみよがしに無関心を装った。そのためハリーは、いらだった。ハーマイオニーがその気になれば、大いに助けてもらえると思っていたからだ。
「ねえ!」ハーマイオニーが、ちょうど配達してきたフクロウから取り外したデイリー・プロフェット紙を開いて、その後ろに姿を隠して読み始めないように、ハリーがそっと言いながら、前かがみになって、新聞に片手を置いた。「スラグホーンのことは忘れてないよ。でも、記憶を手に入れる糸口がないんだ。だから何か思いつくまで、マルフォイがやってることを探ろうとしてもいいじゃないか?」
「あなたはスラグホーンを説得しなくちゃいけないって言ったでしょ」ハーマイオニーが言った。「だますとか魔法をかけるとかいう問題じゃないの。それならダンブルドアが一瞬で、やったはずでしょ。『要求に応じて出てくる部屋』の外を、ぶらつく代わりに」ハリーの手の下からプロフェット紙をぐいとひったくって第一面を開いた。「スラグホーンを探しに行って、善意の部分に訴えるべきよ」
「僕たちが知ってる誰かが――?」ハーマイオニーが見出しをざっと読んでいるときに、ロンが尋ねた。
「ええ!」ハーマイオニーが言ったので、ハリーとロンの両方が朝食中にうっと吐きそうになった。「でも大丈夫。死んでないから――マンダンガスよ。逮捕されてアズカバンに送られたの!インフェリのふりして盗みに入ろうとして、未遂に終わったとか何とかで・・・それからオクタビアス・ペッパーとかいう人が姿を消したって・・・まあ、なんて恐ろしいんでしょ、九歳の男の子が祖父母を殺そうとして逮捕されたんだけど、その子、支配の呪文をかけられていたらしいの・・・」
三人は黙って朝食を終えた。ハーマイオニーは、すぐに古代ルーン文字の授業に、ロンは、まだスネイプのデメンターのレポートの結論を書かなくてはならなかったので談話室に向かった。ハリーは八階の廊下に向かった。そこには、トロルにバレーの踊り方を教えている、ばかなバーナバスの壁掛けの反対側に、壁が続いていた。
通路に誰もいないと分かるとすぐに透明マントをさっとかぶったが、心配しなくてもよかった。目的地に着いたとき、誰もいなかった。部屋の中に入れる可能性は、マルフォイが中にいた方が大きいのか、そうでないのか分からなかった。けれど少なくとも、初めてその部屋に入ろうとするときに、十一歳の女の子のふりをしたクラブやゴイルがいて、やっかいなことになる心配はなかった。
ハリーは「要求に応じて出てくる部屋」の扉が隠れている場所に近づいて、目を閉じた。しなくてはならないことは分かっていた。去年、その部屋に入るのに慣れていたからだ。全力を集中して、心に願った。「僕は、マルフォイがここでしていることを見なくてはなりません・・・僕は、マルフォイがここでしていることを見なくてはなりません・・・僕は、マルフォイがここでしていることを見なくてはなりません・・・」
三度、扉のある場所を通りすぎた。心臓が興奮してどきどきした。目を開けて、その場所に向かって立った――しかし、ありふれた何もない壁が続いているままだった。
前の方に進んで、そこを試しに押してみた。石の壁は、しっかりと硬いままだった。
「分かったよ」大声で言った。「分かったよ・・・僕は、間違ったふうに願ったんだ・・・」
ハリーは少しの間、思案した。それから、また目を閉じてできる限り集中して、始めた。
「僕は、マルフォイがこっそり来ている場所を見なくてはなりません・・・僕は、マルフォイがこっそり来ている場所を見なくてはなりません・・・」
三度通り過ぎた後、期待しながら目を開けた。
扉は、なかった。
「もう、いい加減にしてよ!」壁に向かっていらいらしながら言った。「さっきのは、よく分かる指示だろ・・・いいよ・・・」
数分間、一生懸命考えてから、もう一度歩き始めた。
「僕は、あなたに、マルフォイのために変わる部屋に、変わってほしいです・・・」
歩き終わっても、すぐには目を開かなかった。扉がポンと現れる音が聞こえないかと、一生懸命聞き耳を立てていた。しかし、外の遠くの鳥のさえずり以外、何も聞こえなかった。目を開けた。
扉は、相変わらずなかった。
ハリーは声を出して毒づいた。叫び声が聞こえた。見回すと、一年生の群れが、特別に口汚い幽霊に出会ってしまったと思っているらしく、角を曲がって走って逃げていくところだった。
ハリーは、まる一時間の間、「僕はドラコ・マルフォイが、あなたの中でしていることを見なくてはなりません」の、考えつく限りのあらゆる変形を試してみた。その後、部屋は絶対に開こうとしなかったので、ハーマイオニーの言うことにも一理あるかもしれないと、しぶしぶ認めざるを得なかった。挫折した気持ちで、ふてくされて、闇魔術の防衛術の授業に向かったが、行く途中で透明マントを脱いで、鞄の中に押し込んだ。
「また遅刻だな、ポッター」ハリーがロウソクが灯った教室に駆け込んだとき、スネイプが冷たく言った。「グリフィンドールから十点減点」
ハリーはスネイプをにらみつけて、ロンの隣の席にドスンと座った。クラスの半数はまだ立っていて、教科書を出したり準備したりしていた。ハリーは、そんなに遅かったわけではなかった。
「授業を始める前に、デメンターのレポートを出すように」スネイプが、無造作に杖を振ると、二十五枚の羊皮紙の巻物が空中に舞い上がって、前の机の上にきちんと並んで積みあがった。「これが、前の、支配の呪いに抵抗することについての読むに耐えなかった、たわ言よりは、ましなものであることを期待する。さて、教科書を開いてほしい。ページは――何だ、フィネガン君?」
「先生」シェーマス・フィネガンが言った。「インフェリと幽霊との違いを教えていただけませんか?インフェリについて、プロフェット紙に出ていたので――」
「いや、出ていなかった」スネイプがうんざりした声で言った。
「でも先生、みんなが話してるのを聞きました――」
「君が、ほんとうに問題の記事を読んだのなら、フィネガン君、いわゆるインフェリと呼ばれたものは、マンダンガス・フレッチャーという名の、うさんくさい、こそ泥以外の何者でもないということが分かっただろう」
「スネイプとマンダンガスは、味方同士だと思ってたけど?」ハリーが、ロンとハーマイオニーにささやいた。「マンダンガスが逮捕されて心配すべきじゃないの――?」
「だが、ポッターはこの件に関して大いに言いたいことがあるようだな」スネイプが、突然クラスの一番後ろを指した。その黒い目は、ハリーの上に注がれていた。「インフェリと幽霊の違いは何か、ポッターに聞こう」
クラス全員が振り返って見たので、ハリーは急いで、スラグホーンの元を訪ねた晩にダンブルドアが言ったことを思いだそうとした。
「ええと――その――幽霊は透明で――」
「ああ、大変よろしい」スネイプが、軽蔑したように、口をゆがめてさえぎった。「そう、六年間近くの魔法の教育が、むだになっていないことが、よく分かる、ポッター。幽霊は透明だ」
パンジー・パーキンソンが甲高い声でくすくす笑った。他の何人かの生徒もにやにや笑った。ハリーは深く息を吸って、心は煮えくり返っていたが、冷静に続けた。「ええ、幽霊は透明です。でもインフェリは死体ですよね?だから中味がつまっていて――」
「五歳の子でも、そのくらい言えるな」スネイプが、あざ笑った。「インフェリは闇の魔法使いの呪文によって生き返らせた死体で、生きてはいない。魔法使いの命令により、あやつり人形のように動くだけだ。幽霊は、これまでには、君たち皆、気づいていると思うが、この世を去った魂の地上に残る印影だ・・・だから、もちろん、ポッターがたいそう賢明に語ったように、透明だ」
「あのう、インフェリと幽霊を見分けようとしたら、ハリーが言ったことが一番役に立つよ!」ロンが言った。「もし暗い路地でばったり出くわしたときに、中味がつまってるかどうか、ちらっと見ればいい。『失礼ですけど、あなたはこの世を去った魂の印影ですか?』なんて聞かなくてもさ」
ざわめき笑いが起こったが、スネイプがクラス中を見た目つきで、すぐに静まった。
「グリフィンドールから、また十点減点」スネイプが言った。「君から、これ以上センスのある答えは何も期待しまい、ロナルド・ウィーズリー。とても中味がつまっているので部屋の中を一センチも『姿あらわし』できない少年からはな」
「だめ!」ハリーが怒り狂って口を開こうとしたとき、ハーマイオニーがささやいて、腕を引っぱった。「言ってもむだ。居残りの罰を受けるはめになるだけよ。放っときなさい!」
「では教科書の二百十三ページを開いて」スネイプが、少し、にやにや笑いながら言った。「拷問の呪いについての最初の二つの段落を読みなさい・・・」
ロンは、授業中ずっと、ぐっとこらえていた。授業の終わりの鐘が鳴ると、ラベンダーがロンとハリーに追いついた(ハーマイオニーは、ラベンダーが近づくと、不思議なことに姿を消した)。そして、スネイプが、ロンの姿あらわしを、あざけったのを、熱心に口汚くののしったが、ロンは、いらいらしただけのようで、ハリーと一緒に男子トイレに寄ると言って逃げ出してしまった。
「だけど、スネイプの言う通りだよね?」ロンが、一、二分間、ひび割れた鏡を見つめた後で言った。「試験を受ける価値があるのかどうか分かんないよ。姿あらわしのコツがつかめないんだもん」
「ホグズミードの特別講習を受けて、できるかどうか試したほうがいいよ」ハリーが、筋道が通ったことを言った。「そのほうが、ばかばかしい輪っかの中に入ろうとするより、もっとおもしろいだろ。それでも、まだ――そのう――思うようにできなかったら、試験を延ばして、夏に僕と一緒に受けりゃ――マートル、ここは男子トイレだよ!」
女の子の幽霊が、後ろの個室のトイレから立ち上って空中を漂いながら、分厚いレンズの白く丸い眼鏡越しに、こちらを見ていた。
「まあ」むっつりと言った。「あんたたちなの」
「誰が来るのを待ってたのさ?」ロンが、鏡に映るマートルを見ながら言った。
「誰も」あごのあたりをつつきながら不機嫌そうに言った。「彼が、私に会いに戻って来るって言ったの。でもそれなら、あんたも、私に会いに寄るって言ってたのに・・・」ハリーを責めるような目つきで見た。「・・・でも、あんたに、ずーっと長い間会わなかったから、男の子には、あんまり期待しすぎちゃいけないって分かったの」
「君は、あの女子トイレに住んでたと思ってたんだけど?」ハリーが言ったが、もう数年の間、その場所を注意深く避けていた。
「そうよ」ふくれっつらをして小さく肩をすくめた。「でも、だからって他の場所に行けないわけじゃないもの。一度あんたが、お風呂に入ってるとき会ったことがあるでしょ。覚えてる?」
「はっきりとね」
「でも、彼は私のこと好きなんだと思ったの」悲しげに言った。「あんたたちが行っちゃったら、また戻ってくるかもしれない・・・私たち、たくさん共通点があるの・・・彼もきっとそう感じてる・・・」
そして、期待をこめて扉の方を見た。
「君たちに、たくさん共通点があるっていうのは」ロンが、かなりおもしろがっているように言った。「彼も、S字型の排水管に住んでるって意味?」
「違うってば」マートルが、けんか腰に言った。その声は、古いタイル張りのトイレ中に大きく反響した。「彼が傷つきやすいって意味よ。みんなが、彼をいじめるから、寂しくて、話す人が誰もいないの。それに、感情を素直に表して、泣くのを恥ずかしがったりしないの!」
「ここで男の子が泣いてたの?」ハリーがもの珍しそうに聞いた。「小さい子?」
「よけいなお世話!」マートルが言ったが、小さくて涙もろい目が、あからさまに、にやにや笑っているロンに注がれていた。「私、彼の秘密を誰にも言わないで持っていくって約束したの――」
「――お墓へ持ってくんじゃないのは確かだね?」ロンが鼻を鳴らしながら言った。「下水道へとか・・・」
マートルが、怒り狂って、わめき声を上げてトイレの中にとび込んだので、両側の壁と床の上に、水が、はねた。ロンは、マートルにちょっかいを出したので気が晴れたようだった。
「君の言う通りだ」と言いながら、鞄を肩の上に振り上げた。「ホグズミードの講習を受けてから、試験を受けるかどうか決めるよ」
次の週末、ロンは、ハーマイオニーや二週間後に試験を受けるときまでに十七歳になっている残りの六年生と一緒に出かけた。ハリーは、みんなが村へ行く準備をするのを見て、とてもうらやましく思った。春の、特別にいい天気の日で、久しぶりに澄み切った空の日だったので、ホグズミードへ行けなくて、がっかりした。しかし、その日は、また「要求に応じて出てくる部屋」に入ろうとするつもりだった。
玄関の広間で、この計画を打ち明けたとき、ハーマイオニーが言った。「直接、スラグホーンの部屋に行って、記憶をもらえるように努力してみた方がいいんじゃない」
「ずっと努力してきたよ!」ハリーが不機嫌な口調で言った。それは、ほんとうのことだった。その週、魔法薬の授業が終わるたびに、ハリーは、ぐずぐずと後に残り、スラグホーンを追いつめようとした。しかし魔法薬の先生は、いつも、さっと地下室の部屋を出て行ってしまうので捕まえることができなかった。二度、部屋に行ってノックをしてみたが、返事がなかった。だが二度目に行ったとき、古い蓄音機の音が、素早く小さくなるのが聞こえた。
「スラグホーンは、僕と話したくないんだよ、ハーマイオニー!僕と二人っきりにならないようにしてるんだよ!」
「まあ、それでも、やり続けなくちゃいけないんじゃない?」
フィルチが、いつものように秘密探知機を突っ込んで調べるところを通るのを待っている生徒たちの短い列が数歩前進したので、ハリーは管理人に聞かれてはいけないと思って、その質問に答えなかった。ロンとハーマイオニーに、うまくいくようにと言ってから、引き返して大理石の階段を上ったが、ハーマイオニーが何と言おうと、一、二時間「要求に応じて出てくる部屋」に入ろうと努力するつもりだった。
玄関の広間が見えなくなると、盗人の地図と透明マントを鞄から取り出した。姿を隠して、地図を杖でたたいてつぶやくように言った。「僕は、悪いことを企てていると厳かに誓う」それから地図を注意深く調べた。
日曜の朝だったので、ほとんどすべての生徒たちがそれぞれの談話室、すなわち一方の塔にグリフィンドール生、もう一方にレイブンクロー生、地下室にスリザリン生、そして台所に近い地階にハフルパフ生がいた。あちこちに迷い出た生徒たちが図書室や廊下をうろついていた・・・校庭に出ている生徒たちも少しいた・・・そして、八階の階段に一人だけいるのが、グレゴリー・ゴイルだった。「要求に応じて出てくる部屋」の痕跡はなかったが、ハリーは悩まなかった。つまり、もしゴイルが外に見張りに立っているのなら、地図が気づいても気づかなくても、部屋は開いているはずだ。そこで、階段を駆け上がって、廊下の端に近づいたとき、やっとスピードをゆるめた。そして、前と同じ、重い真ちゅうの秤を持っている小さな女の子の方に、大変ゆっくり忍び足で歩き始めた。二週間前に、ハーマイオニーがとても親切に手伝ってやった、あの女の子だ。その真後ろに行くまで待ってから、とても低くかがんで、ささやいた。「こんにちは・・・君、とってもかわいいね?」
ゴイルは、甲高い恐怖の叫び声を上げて、秤を空中に放り上げ、飛ぶように逃げ出して、見えなくなった。それからかなり長い間、秤が壊れる音が廊下に響き渡っていた。ハリーは、笑いながら振り向いて、何もない壁をじっと見つめた。その後ろに、ドラコ・マルフォイが、招かざる何者かが部屋の外にいるのに気づいたが、あえて姿を見せることもできず凍りついたように立っているはずだと、確信していた。自分は、力を持っているのだと思うと最高に気持ちがよかったので、それを言い表すのに、今まで使ったことのないどんなことばを使おうかと考えた。
しかし、この希望に満ちた気分は長続きしなかった。三十分後、マルフォイが何をやっているか知りたいという願いを、いろいろ変えて言ってみたが、壁には、相変わらず、扉が表れなかった。ハリーは、信じられないと思って、いらいらした。マルフォイは、ほんの三十センチしか離れていないところにいるのに、そこで何をしているか、ほんのわずかでさえ見つけられないのだ。ハリーは堪忍袋の緒が切れて、壁に向かって走っていって蹴りつけた。
「痛っ!」
つま先の骨が折れたかもしれないと思ったので、つま先をつかんで、片足でぴょんぴょん跳んだ。透明マントが滑り落ちた。
「ハリー?」
片足でさっと振り返った拍子に、ぐらついて倒れた。そこにいたのはトンクスだったので、ハリーは、とても驚いた。トンクスは、しょっちゅう、この廊下をぶらついているように歩いてきた。
「ここで何してるの?」ハリーは、慌てて立ち上がろうとした。なぜトンクスは、いつも床に倒れてるとき、僕を見つけるんだろ?
「ダンブルドアに会いに来たの」
トンクスは、怖がっているように見えた。いつもより痩せて、灰茶色の髪は縮れていなくて伸びていた。
「ダンブルドアの部屋は、ここじゃないよ」ハリーが言った。「城の反対側を回ったとこだよ、怪物像の後ろ――」
「知ってるわ」トンクスが言った。「いないの。また遠くに出かけたみたい」
「そうなの?」ハリーが言いながら、打撲した足をそろそろと床の上に下ろした。「ねえ――ダンブルドアが、どこに行ったか知らない?」
「知らないわ」トンクスが言った。
「どうして会いたかったの?」
「特に何も」トンクスが、無意識にローブの袖をつつきながら言った。「ダンブルドアなら、どうなってるのか知ってるかもしれないと、ちょっと思ったの・・・けが人が出たって・・・噂を聞いたから・・・」
「うん、知ってる。新聞に出てた」ハリーが言った。「小さな子が殺そうとしたでしょ――」
「プロフェット紙は、しょっちゅう情報が遅いの」トンクスが言ったが、ハリーが言ったことは聞いていないようだった。「最近、騎士団の人から手紙受け取ってない?」
「騎士団の誰も、もう僕に手紙くれないよ」ハリーが言った。「だって、シリウスが――」
トンクスの目に涙が溢れるのが見えた。
「ごめんね」ハリーは、ぎこちなくつぶやいた。「つまり・・・僕も、彼がいなくて寂しいんだ・・・」
「何?」トンクスが、聞いていなかったように、ぼんやりと言った。「あの・・・またね、ハリー・・・」
そして、いきなり振り向いて、廊下を歩いて行ってしまった。ハリーは、残されて後を見送っていたが、少しして、また透明マントをかぶって「要求に応じて出てくる部屋」に入ろうとする努力を始めたが、心がそれて別のことを考えていた。ついに、ロンとハーマイオニーが、もうすぐ昼食に戻ってくる時間になったので、うつろな感情を抱いたまま、部屋に入ろうとするのをあきらめて、願わくば、マルフォイが、あまりに怖がって、あと数時間、部屋から出て来られないといいなと思いながら廊下を明け渡した。
大広間では、ロンとハーマイオニーがもう早めのお昼を食べ始めていた。
「できたよ――ええと、それらしきものが!」ロンが、ハリーの姿を見つけると興奮して言った。「マダム・プディフットの喫茶店の外に、姿あらわしすることになってたんだ。ちょっと出ただけで、スクリベンシャフトの店の近くで終わっちゃったけど、少なくとも移動したんだよ!」
「よかったね」ハリーが言った。「君はどうだったの、ハーマイオニー?」
「ああ、完璧さ、当然」ロンが、ハーマイオニーが答える前に言った。「完璧に『急がず』、『言い当て』、『行き止まり』とか何とか、何でもいいけどさ――終わってから、みんなで急いで三本の箒亭に行ったんだ。そしたらトワイクロスが、ハーマイオニーのことをしゃべり続けるのが聞こえたよ――そのことを言わなかったら、びっくりだけど――」
「で、あなたはどうだったの?」ハーマイオニーが、ロンを無視して尋ねた。「ずっと『要求に応じて出てくる部屋』に、かまけてたの?」
「そうだよ」ハリーが言った。「で、そこで誰に出くわしたと思う?トンクスだよ!」
「トンクス?」ロンとハーマイオニーが、驚いたように揃ってくり返した。
「ああ、ダンブルドアに会いに来たんだって・・・」
「そう言っちゃ何だけど」ハリーが、トンクスとの会話を話し終えたときに、ロンが言った。「トンクスって、ちょっといかれてる。魔法省の事件の後、うろたえてるよ」
「少し変ね」ハーマイオニーが、どういうわけかとても心配しているように言った。「学校を警護することになってるのに、なぜ急に持ち場を離れて、ダンブルドアに会いに来たのかしら。ダンブルドアが、いないのに?」
「考えたんだけど」ハリーが、声に出すのは変な気がして、ためらいがちに言った。それは、自分のというより、はるかにハーマイオニーの領分だった。「トンクスが、ずっと・・・その・・・シリウスが好きだったとは思わない?」
ハーマイオニーが、ハリーを見つめた。
「一体全体なぜそんなことを言うの?」
「分かんないけど」肩をすくめながら言った。「僕が名前を言ったら、泣きそうになった・・・それに、トンクスのパトローナスは今、大きな四つ足のものなんだ・・・姿が変わったんじゃないかなと思ったんだよ・・・ほら・・・彼に」
「一理あるけど」ハーマイオニーが、ゆっくりと言った。「それでも、なぜダンブルドアに会いに、城に飛び込んできたのか分からないわ。もし、ほんとに、そのために、ここに来たんだとすれば・・・」
「僕が言ったことに戻るだろ?」ロンが言って、マッシュポテトを口一杯つめこんだ。「ちょっと変になっちゃったよ。うろたえてる。女性はね」よく分かっているというようにハリーに言った。「すぐ、おたおたするんだ」
「でもね」ハーマイオニーが、物思いから我に返って言った。「あなた、三十分間、不機嫌だった女性に気がつかなかったんじゃない。マダム・ロスメルタが、鬼婆と癒し手とミンブルス・ミンブレトニアについてのジョークに笑わなかったのよ」
ロンが嫌な顔をした。
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