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ハリーポッターと死の聖物 (Harry Potter and the Deathly Hallows)

第二十九章:失われたダイアデム

 「ネビル、ー、いったい、ー、どうやって、ー?」

 けれど、ネビルはロンとハーマイオニーを見つけ、喜びの叫び声をあげて、二人も抱きしめた。ハリーが、ネビルを長く見れば見るほど、その様子がひどいのが分った。片方の目のまわりは黄色と紫色にふくれて、顔には、丸ノミで傷つけれた跡があり、全体的なだらしない雰囲気から、荒れた暮らしをしているのが想像された。けれど打ち傷だらけの顔は、喜びに輝き、ハーマイオニーを放すと、また言った。「君たちが来ると分っていたよ! シェーマスに、時間の問題だと言いつづけてたんだ!」

 「ネビル、どうしたんだ?」

 「何? これか?」ネビルは、頭の一ふりで、自分の傷を片づけた。「何でもないよ。シェーマスの方がもっとひどい。今に分るさ。それじゃ、行くんだろ? ああ」彼はアバーフォースの方を向いた。「アブ、もっとたくさんの人が、この道に来るかもしれない」

 「もっとたくさん?」とアバーフォースが、険悪な声で言った。「もっとたくさんとは、どういう意味だ、ロングボトム? 村中に夜間外出禁止令が出て『ギャーギャーわめく呪文』がかかっているんだぞ」

 「分ってる、だから、彼らは、直接、この酒場へ姿あらわししてくるよ」とネビルが言った。「彼らが、ここへ着いたら、通路へ送りこんでくれる? どうもありがと」

 ネビルは、ハーマイオニーに手をさしだして、暖炉の上に上ってトンネルに入るのを手伝った。ロンが後に、それからネビルが続いた。ハリーは、アバーフォースに話しかけた。

 「お礼の言いようがありません。二度も、僕たちの命を助けてくれて」

 「それじゃ、気をつけな」とアバーフォースが、ぶっきらぼうに言った。「三度目は、助けられんからな」

 ハリーは暖炉の上によじのぼり、アリアナの肖像画の後ろの穴に入った。その反対側に滑らかな石段があった。その通路は、何年も前に造られたようだった。しんちゅうのランプが壁から下がり、土の床は、すり減って滑らかだった。彼らが歩くと、影が、壁の上に扇形に波うって映った。

 彼らが出発したとき、「これは、どのくらい前からあるんだろ?」とロンが尋ねた。「盗人たちの地図になかっただろ、ハリー? 学校を出入りするには、七つの通路しかないと思ってたんだけど?」

 「今年度が始まる前に、それは全部ふさがれた」とネビルが言った。「もう、そのどれからも出入りできる見こみはない。入り口に呪文がかかっていて、デス・イーターとデメンターが出口に待ってるからね」彼は、にっこり笑って後ろむきに歩きはじめ、ハリーたちの話を熱心に聞いていた。「そんなの気にするなって・・・ほんとうかい? 君たちがグリンゴッツに押し入ったのは? ドラゴンに乗って逃げたんだって? どこででも、誰もが話してるよ。テリー・ブートが、そのことを夕ご飯のとき大広間で叫んだので、カロウにぶちのめされたよ!」

 「うん、ほんとうだ」とハリーが言った。

 ネビルが大喜びで笑った。

 「ドラゴンをどうしたんだい?」

 「荒れ野に放してやった」とロンが言った。「ハーマイオニーは、ペットとして飼うのに賛成だったけど、ー」

 「大げさに言わないで、ロン」

 「でも、君は何をしてたんだ? ただ逃げていただけだといううわさだった、ハリー、でも僕は、そうは思わない。君は何か企んでるんだと思う」

 「その通りだ」とハリーが言った。「でもホグワーツについて話してくれ、ネビル。僕たち、何も聞いてないんだ」

 「それは・・・ええと、もうホグワーツみたいじゃないんだ」とネビルが言ったが、話しているうちに、ほほえみが顔から消えていった。「カロウたちのこと、聞いたことあるかい?」

 「ここで教えてるデス・イーター二人?」

 「教える以上のことをやるんだ」とネビルが言った。「彼らは、規律ぜんぶを仕切ってる。罰が好きなんだ、カロウたちはね」

 「アンブリッジみたいに?」

 「いやあ、比べたら、彼女がおとなしく見えるよ。もし僕たちが悪いことをしたら、他の先生たちは、カロウたちに任せることになってる。けど、先生たちは、避けられるときは、そうしない。先生たちも、僕たちと同じくらい、彼らを嫌ってるのが分る。

 「アミカスってやつは、前に闇魔術防衛術だったものを教えてるんだけど、ただね、今じゃ、闇魔術そのものなんだ。僕たちは、居残りの罰をくらった生徒に、拷問の呪文をかけることになってるんだよ、ー」

 「何だって?」

 ハリー、ロン、ハーマイオニーの声がそろって、通路に響きわたった。

 「うん」とネビルが言った。「そういうわけで、これをくらったんだ」彼は、頬の特別深い切り傷を指さした。「僕は、そうするのを拒否したからね。けど、それに熱中してる生徒もいる。クラブとゴイルなんて大好きだ。彼らが、これまで何かでいちばんになったの初めてだと思うよ。

 「アレクトは、アミカスの妹だけど、マグル学を教えてる。それは全員必修だ。マグルが、いかに動物のようで愚かで汚いか、いかに邪悪なことをして魔法使いを隠れさせるような状態に追いやったか、いかにして自然な秩序が再構築されようとしているかを、彼女が説明するのを、僕たちは、みんな聞かなくちゃならない。僕が、これをくらったわけは」彼は、顔の別の切り傷を指さした。「彼女と兄に、どのくらいマグルの血を手に入れたが聞いたんだ」

 「すごいや、ネビル」とロンが言った。「生意気な口をきくのに、ふさわしい場所と時があるんだな」

 「君は、彼女の話を聞いてなかった」とネビルが言った。「君だって、それに耐えられなかったと思うよ。つまり、人々が敢然と立ちむかうときに、そういうのは役にたつ。みんなに希望を与える。君が、昔、そうやったときに、僕は、それに気づいたんだ、ハリー」

 「けど、彼らは、君をナイフ研ぎに使った」とロンが、少しひるみながら言った。彼らがランプのところを通ったとき、ネビルの傷が、もっと大きく際だって見えたのだ。

 ネビルは肩をすくめた。

 「そんなの問題じゃない。彼らは、純血をそんなにたくさん流したくはないから、僕たちがしゃべりすぎると、少し拷問するけど、ほんとに殺しはしないさ」

 ハリーは、ネビルが彼らに言ったことや、それを言ったときの感情を出さない口調より、もっと悪い状態はないだろうと思った。

 「ほんとうに危険な立場なのは、学校の外の友だちや身内が、やっかいごとをおこしている生徒だ。彼らは、人質に取られる。ゼノ・ラブグッド老は、クィブラー誌でちょっと言いすぎたんで、ルナは、クリスマス休暇で帰省する列車の中で連れ去られた」

 「ネビル、彼女は大丈夫だ。会ったから、ー」

 「うん、知ってる、彼女が何とか知らせをよこしてくれた」

 ネビルは、ポケットから金貨を取りだした。それが、「ダンブルドアの軍隊」が互いに知らせを送るのに使った、にせ物のガレオン金貨だと、ハリーはすぐ分った。

 「これは、すごかったよ」とネビルが、ハーマイオニーににっこり笑いかけた。「カロウたちは、どうやって僕たちが連絡をとってるのか見破れなかった。彼らは怒りくるった。僕たちは、夜こっそ抜けだして壁に落書きしたものだよ。『ダンブルドアの軍隊、まだ募集中』みたいなことをね。スネイプは、ひどく嫌ってたけど」

 「『したものだ』って?」と、過去形に気づいたハリーが言った。

 「うーん、時がたつにつれて、だんだん難しくなってきてね」とネビルが言った。「クリスマスにルナがいなくなって、イースターの後、ジニーが戻ってこなかった。僕たち三人が、リーダーみたいなものだったんだ。僕が、その多くの黒幕だったのを、カロウたちは知ってるようだ。で、彼らは僕に手をのばしはじめた。それから、マイケル・コーナーが、鎖でつながれた一年生を解放しにいって、捕まって、とてもひどく拷問された。それで、みんな、すっかり恐がってしまった」

 「まさか」とロンがつぶやくように言った。通路は、上り坂になりはじめた。

 「ああ、うーん、マイケルのようにやってくれと、みんなに頼むわけにはいかなかったんで、そういう人目をひくことをやるのは止めにした。でも、ちょうど二週間前までは、こっそりやって、まだ戦ってきた。そのとき、僕を止めるには、たった一つの方法しかないと、彼らが決めたんだと思う、で、彼らは、ばあちゃんを襲いにいった」

 「彼らは、何だって?」とハリー、ロン、ハーマイオニーが、いっしょに言った。

 「うん」とネビルが、少し息をきらせながら言った。通路が、とても急な上り坂になっていたのだ。「あのね、彼らが考えることが分るだろ。親や身内をおとなしくさせるために子どもを誘拐するのは、とても効果があった。あべこべに、僕は、彼らがそうするのは時間の問題だと思ってた。問題はね、」ネビルが彼らに顔を向けた。ハリーがびっくりしたことには、彼はにやにや笑っていた。「彼らには、ばあちゃんは、ちっとばかり手強かったんだ。一人暮らしの小柄な老魔女。特に力のあるやつを、やる必要はないと考えたに違いない。とにかく」ネビルが笑った。「ドーリッシュは、まだセントマンゴ病院にいるし、ばあちゃんは逃走中だ。僕に手紙を送ってくれた」ネビルは、ローブの胸ポケットをたたいた。「おまえを誇りに思う、おまえは両親の息子だ、がんばれって書いてあった」

 「かっこいい」とロンが言った。

 「うん」とネビルがうれしそうに言った。「一つだけ問題は、彼らが僕に言うことを聞かせられないと悟って、結局ホグワーツは僕がいなくてもやっていけると決めることだ。僕を殺そうとするか、アズカバンに送ろうとするか、どっちにしても、僕が、姿を消したほうがいい時期だと思ってたんだ」

 「でも」とロンが、まったく混乱したように言った。「僕たちは、ー、僕たちは、まっすぐホグワーツに戻ろうとしてるんじゃないのか?」

 「もちろん」とネビルが言った。「今に分るよ。さあ着いた」

 角を曲ると、その先で通路が終っていて、また短い階段があって、アリアナの肖像画の後ろに隠されているのと同じような扉に続いていた。ネビルが、それを押しあけて、上ってくぐった。ハリーが後に続くと、ネビルが見えない人々に呼びかけるのが聞えた。「誰が来たか見なよ! 僕が言っただろ?」

 ハリーが、通路の向こうの部屋の中にあらわれると、金切り声や叫び声が上がった、ー

 「ハリー!」

 「ポッターだ、ポッターだ!」

 「ロン!」

 「ハーマイオニー!」

 色とりどりの壁掛けや、ランプや、たくさんの顔が入りまじって、ハリーに見えた。次の瞬間、彼と、ロン、ハーマイオニーは、二十人以上と思われる人たちに取りかこまれ、抱きしめられ、背中をたたかれ、髪をくしゃくしゃにされ、握手をされた。まるでクィティッチの決勝戦に勝ったかのようだった。

 「よし、よし、静まれ!」ネビルが呼びかけ、みんなが引きさがったので、ハリーは、まわりの状況を理解することができた。

 その部屋がどこか全然分らなかった。とても大きくて、どちらかというと特別ぜいたくな樹の上の家か、巨大な船室の内部のようだった。

 いろいろな色のハンモックが天井や、張りだし席から並べて吊るされていて、そのまわりを黒っぽい板で窓のない壁が取りまいていて、壁には鮮やかな壁掛けがたくさんかかっていた。赤色の地に飾られた金色のグリフィンドールのライオン、黄色の地におかれたハフルパフの黒いアナグマ、青地の上のレイブンクローのブロンズ色のワシが、ハリーに見えた。スリザリンの銀色と緑色だけがなかった。いっぱい詰まった本箱があり、ホウキが二、三本壁に立てかけてあり、隅には大きな木の箱に入ったラジオがあった。

 「ここは、どこ?」

 「『必要に応じて出てくる部屋』だよ、もちろん!」とネビルが言った。並はずれてすごいだろ? 僕は、カロウたちに追いかけてられていて、隠れ場所を探すには、ただ一つのチャンスしかないと分ってた。ここが、なんとか扉を通って、僕が見つけたところなんだ! ええと、僕が着いたときは、このとおりじゃなかった。もっと小さくて、ハンモックが一つと、グリフィンドールの壁掛けだけしかなかった。けど、どんどんDAのメンバーが到着したら、どんどん広がったんだ」

 「カロウたちは入れないのか?」とハリーが、扉はどこかと見まわしながら言った。

 「入れないよ」とシェーマス・フィネガンが言ったが、口をきくまで、ハリーには誰か分らなかった。顔が、傷だらけでふくらんでいたからだ。「ここは、すてきな隠れ場所だ。誰か一人がいるかぎり、扉が開かないから、彼らは近づけない。ネビルが、この部屋を手に入れたんだから、みんな彼のおかげさ。望むことを正確に願わなくちゃいけない、ー、『カロウの支持者は誰も入れないように願います』みたいにね、ー、そしたら、そのとおりになるんだ! 通風口を閉じておくことだけ忘れなきゃいい! ネビルはすごいやつだよ!」

 「そりゃ、言いすぎだ、ほんとにね」とネビルが控えめに言った。「僕は、一日半くらい、ここにいて、どんどんおなかがすいてきたんで、何か食べものがほしいと願った。そしたらホグズ・ヘッドへの通路が開いたんだ。僕は、そこを通っていって、アバーフォースに会った。彼が、僕たちに食べものを調達してくれるんだ。どういうわけか、それは部屋が、してくれないことの一つだから」

 「うん、ええと、食べものは、ガンプの基本的変身法則における五つの主要な例外の一つなんだ」とロンが言ったので、みんなが驚いた。

 「それで、僕たちは、ここに二週間くらい隠れているんだ」とシェーマスが言った。「ハンモックが必要になるたびに、出てくる。とてもいい浴室までポンと出てきたんだ、女の子が来はじめて、ー」

 「ー、すごく洗いたいと願ったらね、そうよ」とラベンダー・ブラウンが補足したが、そのときまで、彼女がいることにハリーは気づかなかった。彼が、きちんと見まわしてみると、見慣れた顔が、たくさんあった。双子のパティル姉妹が、二人ともいた。テリー・ブート、アーニー・マクミラン、アントニー・ゴールドスタイン、マイケル・コーナーがいた。

 「でも、君たちが何を企んでるのか話してくれ」とアーニーが言った。「すごくたくさん噂があった。『ポッター番』で君たちの動きを追っていようとしていたんだ」彼はラジオを指した。「グリンゴッツに押し入ったりは、しなかったんだろ?」

 「したんだよ!」とネビルが言った。「ドラゴンのも、ほんとうだ!」

 拍手したり、叫び声をあげる者もいた。ロンがお辞儀をした。

 「君たちは何の跡を追っているんだい?」とシェーマスが熱心に聞いた。

 三人の誰かが、その質問を受けながす前に、ハリーは、稲妻形の傷跡が、焼けつくようにひどく痛むのを感じた。急いで、みんなの興味深げな、うれしそうな顔に背中を向けると、「必要に応じて出てくる部屋」が消えた。彼は、石造りの小屋の廃墟に立っていた。足元の腐った床板が、はがされ、中から金の箱が掘りだされて、穴の横に、蓋が開いて、空っぽで置かれていた。ヴォルデモートの憤怒の叫びが、頭の中に響いていた。

 ハリーは、とても努力をして、ヴォルデモートの心から離れて、戻って「必要に応じて出てくる部屋」の中によろめきながら立っていた。顔から汗が吹きだし、ロンに支えあげられた。

 「大丈夫かい、ハリー?」ネビルが言っていた。「座りたい? 疲れてるんじゃないか、ー?」

 「大丈夫」とハリーが言った。ロンとハーマイオニーを見て、無言で、ヴォルデモートがホークラクスの一つがないのを発見したところだと伝えようとした。時はどんどん過ぎ去っていた。もし、ヴォルデモートが次にホグワーツを訪れることを選べば、自分たちはチャンスを失ってしまう。

 「進みつづけなくちゃならない」彼は言った。二人の表情から、二人が理解したことが分った。

 「それで、これから何をするのかい、ハリー?」とシェーマスが尋ねた。「どんな計画?」

 「計画?」とハリーが、くりかえしたが、ヴォルデモートの激怒に、また屈しないために、ありったけの意志の力を使っていた。傷跡はまだ焼けるように痛んだ。「ええと、僕たちは、ー、ロンとハーマイオニーと僕は、ー、やらなくちゃならないことがある、で、それから、僕たちは、ここを出ていく」

 もう誰も笑わなかったし、叫び声もあげなかった。ネビルが混乱したように言った。

 「『出ていく』ってどういう意味かい?」

 「僕たちは、ここに、ずっといるために戻ってきたんじゃない」とハリーが傷跡をこすって、痛みを和らげようとしながら言った。「やらなくちゃならない重要なことがあるんだ、ー」

 「それは何だ?」

 「僕、ー、僕は言えない」

 今度は、不満のつぶやきが、さざ波のようにおこった。ネビルは眉をしかめた。

 「なぜ、僕たちに言えないんだ? それは、例のあの人と戦うことに関係あるんだろ?」

 「ええと、そうだ、ー」

 「それなら、僕たちが手伝うよ」

 ダンブルドアの軍隊の他のメンバーもうなずいた。ある者は熱心に、ある者は厳粛に。数人が、、すぐに行動に移ろうという意志をあらわして椅子から立ちあがった。

 「君たちは分ってない」ハリーは このことばを数時間前に、とてもたくさん言ったような気がした。

 「僕たちは、ー、僕たちは言えない。僕たちは、やらなきゃいけない、ー、僕たちだけで」

 「なぜ?」とネビルが尋ねた。

 「なぜって・・・」ハリーは、見つかっていないホークラクスを捜しはじめたい、少なくとも、どこから捜したらいいか、ロンとハーマイオニーと三人だけで話しあいたいと、いらいらしていたので考えをまとめることができなかった。傷跡が、まだ焼けつくように痛んだ。「ダンブルドアが僕たち三人に仕事を遺した」ハリーは注意しながら言った。「それは、話してはいけないことになっている、ー、つまり、彼は、僕たち、僕たち三人だけで、それをするのを望んだんだ」

 「僕たちは、彼の軍隊だ」とネビルが言った。「ダンブルドアの軍隊だ。僕たちは、みんないっしょにやってきた。僕たちは、やりつづけてる。君たち三人が、自分たちの仕事でいない間も、ー」

 「これは、ピクニックじゃないんだよ」とロンが言った。

 「そんなこと言ってないよ。けど、なぜ僕たちを信用できないのか分らない。この部屋の全員が戦って、カロウたちに捕まえられかけて、ここに追われてきた。ここにいる全員が、ダンブルドアに忠実だということを証明したんだ、ー、つまり君に忠実だということを」

 「あのね」ハリーが言いはじめた。、何を言うつもりか分らないままだったが、それはどうでもよかった。そのとき、ちょうど彼の後ろでトンネルに続く扉が開いた。

 「知らせ、受けとったよ、ネビル! こんにちは、三人組。君たち、ここにいると思ったよ!」

 それは、ルナとディーンだった。シェーマスが喜んで大きな叫び声をあげ、親友に走りよって抱きしめた。

 「あら、みんな!」とルナがうれしそうに言った。「まあ、戻ってきて、とってもうれしいわ!」

 「ルナ」とハリーが気を逸らされて言った。「君、ここで何をするのかい? どうやって、ー?」

 「僕が、彼女を呼びよせたんだ」と、ネビルが、にせのガレオン金貨を持ちあげて言った。「もし君があらわれたら知らせるって、ルナとジニーに約束したんだ。僕たちはみんな、君が戻ってくれば、それは革命を意味すると考えてきた。スネイプとカロウたちを打倒できるとね」

 「もちろん、そういう意味よ」とルナが陽気に言った。「そうでしょ、ハリー? 戦って、彼らをホグワーツから追いだすの?」

 「聞いてくれ」ハリーが、だんだんパニック状態になりながら言った。「ごめん、僕たちが戻ってきたのは、そういうわけじゃない。僕たちは、やらなくちゃならないことがあって、それから、ー」

 「君たちは、僕たちを、このごたごたの中に放っとくのかい?」とマイケル・コーナーが強い口調で言った。

 「違う!」とロンが言った。「僕たちがやってることは、結局はみんなのためになるんだ。すべて例のあの人をやっかい払いすることに関係してるんだから、ー」

 「だったら、手伝わせろ!」とネビルが怒って言った。「僕たちだって、加わりたい!」

 後ろで、また物音がしたので、ハリーは、ふりむいたが、心が落ちこむような気がした。ジニーが、壁の穴を通ってのぼってくるところだった。そのすぐ後にフレッド、ジョージ、リー・ジョーダンが続いた。ジニーは、ハリーに輝くようにほほえみかけた。どんなに彼女が美しいか、ハリーは忘れていた、というか完全に気づいたことがなかったのだ。けれど、彼女に会って、こんなにうれしくないことはなかった。

 「アバーフォースが、ちょっと怒りっぽくなってる」とフレッドが、挨拶の叫び声に手をあげて答えながら言った。「切符を欲しがってるよ。そうすれば、あの酒場が、鉄道の駅になるからな」

 ハリーの口があんぐり開いた。リー・ジョーダンのすぐ後から、元カノのチョウ・チャンがやってきて、ほほえみかけた。

 「知らせを受けとったわ」彼女は言いながら、昔のガレオン金貨を、さしあげた。そして歩いていって、マイケル・コーナーの横に座った。

 「で、どんな計画だ、ハリー?」とジョージが言った。

 「ないよ」とハリーが、突然みんなが現れたので、まだ、まごついて、すべてを把握できないで言った。その一方、傷跡はまだ、とてもひどく痛みつづけていた。

 「やりながら、でっちあげてくっわけ? 僕のお気に入りのやり方だ」とフレッドが言った。

 「君は、こんなこと、やめなくちゃだめだ!」ハリーがネビルに言った。「何のために彼らをみんな呼びもどしたんだ? 正気じゃないよ、-」

 「僕たちは戦うんだろ?」とディーンが、にせのガレオン金貨を取りだしながら言った。「ハリーが戻った、戦うぞ!という知らせだった。 でも、僕は杖が要るんだけどな、ー」

 「杖がないのか、ー?」とシェーマスが言いはじめた。

 ロンが、突然ハリーの方を向いた。

 「なぜ、彼らは手伝えないのか?」

 「何だって?」

 「彼らは手伝えるよ」ロンは、二人のあいだに立っていたハーマイオニーの他には誰にも聞えないように声を低くして言った。「僕たちは、あれがどこにあるか分らない。すばやく見つけなくちゃならない。彼らに、あれがホークラクスだと言う必要はないんだ」

 ハリーは、ロンからハーマイオニーへと順に見た。彼女は小声で言った。「ロンの言うとおりだと思うわ。私たち、何を探したらいいかすら分らないもの。彼らの助けが要るわ」そしてハリーが、どうかなという顔をしているのを見て言った。「何もかも一人でやる必要はないわ、ハリー」

 ハリーはすばやく考えた。傷跡が、まだちくちく痛んで、頭が割れそうだった。ダンブルドアが、ホークラクスについては、ロンとハーマイオニー以外の誰にも言うなと警告していた。「秘密と嘘、それで、われわれは育った、そしてアルバスは・・・秘密にかけては、天性の素質があった・・・」僕は、ダンブルドアに変ったのか、秘密を胸にしまいこんで、信じることを恐れるなんて? でもダンブルドアは、スネイプを信用した。そして、どうなった? いちばん高い塔のてっぺんで殺された・・・

 「分った」彼は、そっと二人に言った。「よし」そして、部屋全体に呼びかけた。すべての物音が、やんだ。フレッドとジョージは近くの者たちにジョークを連発していたが、さっと黙った。全員が、油断なく興奮していた。

 「僕たちが、見つけなくてはならない物がある」ハリーが言った。「それは、-、それは、例のあの人を倒すのに必要な物だ。それは、ここホグワーツにあるが、どこにあるのか分らない。レイブンクローの持ち物だったかもしれない。誰か、そんな品物のことを聞いたことがないか? たとえば、彼女の印のワシがついた品物を見つけたことはないか?

 ハリーは、期待をこめてレイブンクローの小さな集団、パドマ、マイケル、テリー、チョウを見た。けれど、答えたのは、ジニーの椅子のひじかけに座っているルナだった。

 「ええと、失われたダイアデムがあるわ。そのこと話したでしょ、覚えてる、ハリー? パパが複製品を作ろうとしてるレイブンクローの失われたダイアデムのことよ?」

 「うん、でも、失われたダイアデムは」とマイケル・コーナーが、目をぐるっと回して言った。「失われたんだよ、ルナ。そこが大事な点かな」

 「いつ頃、失われたんだ?」とハリーが尋ねた。

 「何百年も前だと聞いたわ」とチョウが言ったので、ハリーの心が沈んだ。「フリットウィック先生の話では、ダイアデムは、レイブンクロー自身といっしょに消えたそうよ。人々が探したけど」彼女は、レイブンクローの仲間に訴えかけた。「誰もその跡をたどれなかったのよね?」

 彼らは、みんなうなずいて同意した。

 「ごめん、ダイアデムってどんなもの?」とロンが尋ねた。

 「王冠みたいなもの」とテリー・ブートが言った。「レイブンクローのは、魔法の特性を持っていて、かぶった人の知恵を増やしたそうだ」

 「そうよ、パパのラックスパートは吸いあげるの、ー」

 けれどハリーはルナの話をさえぎった。

 「で、君たちの誰も、そんなようなものを見たことがないのかい?」

 彼らは、またうなずいて同意した。ハリーは、ロンとハーマイオニーを見た。自分の失望が、二人の顔に同じようにあらわれているのが分った。これほど長いあいだ、失われていて明らかに跡がたどれない品物では、城にあるホークラクスの候補としては有望ではなかった・・・けれど、彼が新しい質問を組みたてる前に、チョウがまた言った。

 「もし、ダイアデムがどんなものか見たかったら、私たちの談話室に行って見せてあげるけど、ハリー? レイブンクローの像が、かぶっているから」

 ハリーの傷跡がまた焼けつくように痛んだ。一瞬、彼の前で「必要に応じて出てくる部屋」がゆれて、代りに、彼の下に黒っぽい大地が舞っているのが見え、巨大なヘビが肩に巻きついているのが分った。ヴォルデモート卿がまた空を飛んでいたが、地下の湖へか、この城へか、どちらへ向うのかは分らなかった。どちらにせよ、ほとんど時間は残っていなかった。

 「彼は移動している」ハリーは、そっとロンとハーマイオニーに言って、チョウをちらっと見て、それからまた二人を見た。「ねえ、これはたいした手がかりではないと思うけど、その像を、見にいってこようと思う。少なくともダイアデムが、どんなものか分るから。ここで待ってて、ー、ほら、ー、もう一方を、ー、保管しといて」

 チョウが立ちあがったが、ジニーが、かなり激しい調子で言った。「いいえ、ルナがハリーを連れてくわ、いいでしょ、ルナ?」

 「まあー、いいわ、喜んで」とルナがうれしそうに言った。チョウは、がっかりしたように、また座った。

 どうやって外に出るんだ?」ハリーがネビルに聞いた。

 「こっちだよ」彼は、ハリーとルナを隅に連れて行った。そこには小さな食器棚の扉が開いていて、その奥が急な階段になっていた。

 「それは毎日、違うところに出るから、ぜったい見つからないんだ」彼は言った。「ただ一つ困ったことは、出たら最後どこに着くのかはっきり分らないことさ。気をつけろ、ハリー、彼らが、夜はいつも見まわりしてるから」

 「大丈夫」とハリーが言った。「また後で」

 彼とルナは、階段を急いで上った。それは長くて、たいまつに照らされていて、思いがけないところで何度も曲った。とうとう、彼らは固い壁のようにみえる場所に着いた。

 「この下に入って」ハリーはルナに言って、透明マントを引きだし、二人の上にさっとかけた。それから壁を少し押した。

 ハリーが触ると、壁は溶け去り、彼らは外に滑るように出た。ちらっと後ろを見ると、壁は、もう、ふさがっていて、彼らは暗い廊下に立っていた。ハリーは、ルナを暗い影の中に引っぱりこみ、首のまわりの袋を手探りして、盗人たちの地図を取りだした。それを、鼻にくっつけるほど近づけて、探し、やっと彼とルナの点を見つけた。

 「僕たちは、六階にいる」彼はささやいて、廊下の向こうをフィルチが去っていくのをじっと見ていた。「さあ、こっちだ」

 彼らは、そっと進んだ。

 ハリーは、これまで何度も夜の城をうろつき回った。けれど、心臓が、こんなに速く打ったことはなく、目的地に行くのに、こんなに安全な道を通ろうとしたこともなかった。月の光に照らされた四角い床を通り、甲冑姿のそばを通ると、彼らがそっと歩く足音に、かぶとがきしんだ。それから、二人は、何が潜んでいるか分らない角をいくつも曲り、明かりをつけられるところでは、盗人たちの地図を調べながら歩いていった。二度、幽霊に注意を引かれないように立ちどまって、彼らを先に行かせた。いつ障害物に出くわすかもしれないと思っていたが、最悪の恐れは、ピーブスだった。それで、ポルターガイストが近づいてくる最初の隠しきれないサインを聞きとろうとして、一足ごとに耳をそばだてていた。

 「こっちよ、ハリー」とルナがささやき、袖をぐいと引いて、ラセン階段の方に引っぱっていった。

 彼らは、狭い階段を円形に上りつづけて目がくらむようだった。ハリーは、こんなに高く上ったことがなかった。やっと扉のところに着くと、取っ手も鍵穴もなかった。古びた木が平らに広がっている以外何もなく、ワシの形のブロンズの戸叩きがついていた。

 ルナが青白い手をのばすと、それは、腕や体から離れて空中に気味悪く浮かんでいるように見えた。彼女は一度ノックした。静かな中で、その音が大砲の音のように聞えた。すぐにワシのくちばしが開いたが、鳥の鳴声の代りに、柔らかな音楽的な声がした。「フェニックスか炎か、どちらが先に来たか?」

 「うーん・・・どう思う、ハリー?」とルナが、考えこみながら言った。

 「何? これ、ただのパスワードじゃないのか?」

 「あら、ちがうわ、質問に答えなくちゃいけないのよ」とルナが言った。

 「もし、まちがったら?」

 「ええと、誰か正しい答えを言う人が来るまで待たなくちゃ」とルナが言った。「そうやって学ぶのよ、分った?」

 「うん・・・困ったことには、僕たち、誰かを待ってる余裕はないんだ、ルナ」

 「ええ、あなたの言う意味、分るわ」とルナがまじめに言った。「ええと、それじゃ、答えは、円には始まりがない、だと思うわ」

 「よく考えました」と声が言い、扉がさっと開いた。

 誰もいないレイブンクローの談話室は、広い円形の部屋で、ハリーが行ったことがあるホグワーツのどこの部屋より風とおしがよかった。優美な弓形の窓が、壁のところどころに開いていて、青とブロンズ色の絹のカーテンが下がっていた。昼間、レイブンクロー生は、まわりを取りまく山々の、すばらしい眺めを見ることができるだろう。天井はドーム形で、星が描かれていて、黒っぽい青色の絨毯に、よく合っていた。テーブルと椅子と本箱があり、扉の反対側のすきまに、白い大理石の背の高い像が立っていた。

 ハリーは、ルナの家で見た胸像から、それがロウィーナ・レイブンクローだと分った。その像のそばには扉があって、上の寮へ続いているのだろうと思われた。彼は、大理石の女性のところに歩いていった。彼女は、美しいが、少し怖さを感じさせる顔に、半分からかうようなほほえみを浮かべて彼を見おろしているようだった。繊細にみえる頭飾りが、その頭の上の大理石に再現されていた。それは、フラーが結婚式にかぶっていたティアラに似ていないこともなかったが、その上には、小さな字で、ことばが刻んであった。ハリーは、マントから出て、レイブンクローの台座の上にのぼり、それを読んだ。

 「『測りきれない知性は、人間の最大の宝』」

 「それは、あんたを文なしで愚かにするよ」とメンドリが鳴くような声がした。

 ハリーは、さっとふりむき、台座から滑りおりて、床に着地した。アレクト・カロウの前かがみの姿が、彼の前に立っていた。そして、ハリーが杖を上げたちょうどそのとき、彼女が、短くて太い人差し指を、前腕の、骸骨とヘビの焼き印に押しつけた。
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