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ケルトの曼荼羅 ==== 大地の謎と神話 ケルト人は自然のあらゆる面に聖なる力を認めた。調和とバランス、闇と光、冬と夏、雌と雄、これらのパターンがケルトの伝統を通じて組み込まれている。ケルトのパターンには、命の連続性、植物、動物、この世と別の世界の神々などすべての物の相互関連性を信じる彼らの思いが表れている。 「ケルトの曼荼羅」はウェールズのアーティスト、ジェン・デリスの魔法のような織物をカレンダーの形にしたものである。ジェンの作品は、ケルト人の血筋を持つことに深く関わっている。彼女は複雑な下絵を描きその上に自作の自然を撮った写真をコラージュ技法で貼り付け、そのようにして万物が自然界に関わりがあることを象徴的に表している。そのケルトの曼荼羅はケルトの人々の不死の精霊と共に生きている。 ==== 三羽のツル - Y Tri Garan 1.jpg ツルは、長い足の、ショウキン類(長い足で歩いて水の中にいる?)の鳥で、普通柳の木と水に関連し、それらが住む沼地と同じく謎めいている。ケルトの伝承では、鳥は、この世界と、この世とは別の世界との間の魂の運び手で、特に白いツルは木の魂に関係がある。ケルトの神話には嫉妬深いライバルによりツルに変えられた美しい娘と骨ばった足で気味悪い声で叫ぶ大きな鳥に姿を変える根性の悪い女の話が数多くある。アイルランドの海の神マナナマンは、そのまじない用のツルの鞄をかつては若い娘であったツルの皮で作った。古代ケルトの宗教団体のドルイド僧の鞄には、この世とは別の世界の宝が入っている。占いに使う精神的力の元である石や、棒。癒しや知恵を授けるのに使う薬草や植物。魂を捕まえるのに使う網や紐といったものである。満潮の時、これらの宝は目に見えるが、荒々しい海が引き潮の時は、ツルの鞄は空っぽになる。 ==== リンディスファーンの福音書 2.jpg ギリシア人にKeltoiと名づけられたケルト人はローマ以前の西ヨーロッパにおける一部族で,その工芸の巧みさは素晴らしい美術スタイルを生み出した。初期キリスト教会の僧達はその独特で複雑な織り模様や結び目模様を手書きの福音書の装飾に取り入れた。ケルトの模様のつけ方はケルト人が命の連続性ーすべての物の相互関連性を信じていることを表している。植物、動物、この世と別の世界の神々、いろいろの要素がこれらの魔法の織りの中で崇められている。このデザインはウェールズのアーティストのジェン・デリスによってリンディスファーンの福音書から再現されたものである。これはマルコによる福音書を紹介するクロスカーペットのページの部分である。リンディスファーンの福音書はキリスト教の布教後一世紀を経ないうちにイングランド北東部で作られたものだが、世界中で最も偉大な手書きの著作の一つである。作成したのはAldred,Eadfrith,Ethelwald,Billfrithの四聖人だと証明されている。リンディスファーンの僧院はA.D.635に、ノーサンバーランドの岸から約2,4キロ離れた砂に囲まれた今は聖なる島として知られる小さな隆起した土地に建てられた。 ==== Y Ddraig Goch - ドラゴン 3.jpg 赤いドラゴンはブリテンの主権の象徴であり、最も偉大な王統ペンドラゴン家の守護動物である。ケルト信仰においてドラゴンとヘビは、大地のエネルギーードラゴンの血統を象徴している。赤いドラゴンはかつて古代ウェールズの偉大な神デウィを表していた赤い大蛇に由来し、またウェールズの神話的守護聖人デイヴィッドに関連づけられている。次のような伝説がある。ブリテンの専制君主ヴォーティガン王は要塞の塔――ウェールズのスノウドニアのDinas Emrys(Emrysの都)の丘の要塞とおもわれる――を建てることを企てた。しかし塔はぐらぐらして安定せず、建造物は崩れ落ちた。一人の少年が、塔を安定させるためのいけにえにされることになった。若いエムリス(Emrys)は予知能力を持っていて、赤と白の二匹のドラゴンが不安定な土台の地下の水溜りで戦っているのを見た。ヴォーティガンは、恐れを抱いて少年の言うことを聞いたので、少年は生き延びた。一説には長じて賢者Myriddin(マーリン)になったと言われる。Emrysは、赤いドラゴンが白いドラゴンを殺し、サクソン人はブリテンから追い払われるだろうと予言した。「赤いドラゴンが再び立ち上がるであろう」 ==== Arianrhod - 月の精 4.jpg ウエールズの女神Arianrhodは中世の物語集The Mobinogiの登場人物で北方の魔法の国Caer Sidiの支配者である。Arianrhodは銀の車輪を意味する名だが月の巫女、潮の流れを司る者として崇拝された。月は女性の象徴の原型で、子宮、死、再生、創造に関する母なる神を表している。(ブリテンの古い名であるアルビオンは、白い月を意味する。)ウェールズ語では星座Corona Borealis(北冠座)はArianrhodの城と名づけられている。ケルト人は「海と星の道を良く知り」、時を日毎でなく夜毎に数え、暦(有名な Coligny calendar)を太陽でなく月により作った。 ==== 命の木 - Y Goeden Bywyd 5.jpg 命の木は多くの文化や神話の中で共通の秘儀の教えである。古代人は、全宇宙を、地深く根を張り、天高く枝を伸ばす一本の木の形に思い描いた。ブリテンは、かつて広大なオークの森で覆われていた。そして、木々に対する崇敬の念が、ケルト人の精神の中心にある。ドルイド僧はオークの木立に教えの場を持ち、森と知恵(wood,wisdom)を表す単語はよく似ている。(ウェールズ語ではgwydd,gwyddon)。宇宙の構成要素を代表する生き物 ー 聖なるサケ、アオサギ、ウマ、イヌ、人類が、命の、緑のつるにからまっのている。中世の手書き本「ケルスの書」the Book of Kellsから取られて、周りに描かれた壷のモチーフ(繰り返し模様の主題)は、宇宙の源、大地の子宮を表し、またケルト神話で再生を意味する聖杯や鍋を表してもいる。からみ合った枝は、命の連続を象徴している。 ==== ハト 6.jpg 多くの神話の中で、ハトは、魂、知恵、再生、調和の女性の象徴として現れる。古代世界で、調和は、治療の概念に近い。ハトのイメージは、ケルトの温泉の治療者の神々に捧げられている。複数のハトの石像が、神殿を司る治療の精霊に捧げられている。ハトは、ワタリガラスと同じく、おそらくその独特な鳴き声のせいで神託を告げる鳥として知られている。古典的な図像学、神話学では、ハトは、愛の女神ヴィーナスのものである。ハトとオリーブの枝は、元々は「女神の平和」を意味していた。地球の平和、peace on earthが、ケルトの国々の現存することばのいくつかでここに書かれている。 - Tangnefedd ar y ddaear (Welshウェールズ語) 、 - Shee er y talloo (Manxマン島語)、 - Re bo cres yn nor (Cornishコーンウォール語)、 - Air talamh sith (Scottishスコットランド語)、 - Peoc'h war ar bed (Bretonブリタニー語)、 - Siochain ar talamh (Irishアイルランド語)。 ==== 石の中の精霊 7.jpg ケルトの宗教では、自然界のすべてのものは固有の精霊を持っている。木、泉、小川、山、岩のそれぞれが、聖なる力を宿している。これらの古代の謎は神話の中に根付いている。そして、生物が魔法で石に変えられても、精霊は生き続け、冷たい灰色の岩の中でねむり続けるのだと、伝説では語られる。これらの直立する石は、巨石時代から永続する象徴である。巨石時代、ドルメン、クロムレック、メンヒルといった石柱が、今に残る土地に聖なる力の中心点としてそそり立っていた。緑のつるの源――命の木 ――はケルトの再生の鍋、治癒と再生を表す聖杯、永遠に新しくなり続ける精霊の象徴である。ケルト人は、生と死が互いに関連している――片方では存在し得ないという神秘を理解していた。赤いケシは夢、眠り、そして死に関連している。赤はこの世と別の世界の色で、超自然を表している。眠る王アーサー(Pen Annwn)、この世と別の世界の王は、ウェールズの山の中で聖なる船を守りながら眠り続けている。世界が危急に瀕した時、アーサーは角笛の音により目覚め戻り来たると、伝説に語られる。 -dolmenn… ドルメン史石墓(直立した数個の自然石の上に、扁平な大岩を乗せたもの、先史巨石文化の遺跡) -cromlech…クロムレック(円形に置かれた巨大な石柱の一群、有史以前の遺物) -menhir…メンヒル(石の柱) ==== ケルトの十字架 - Y Groes Geltaido 8.jpg しばしば命の木と関連づけられるが、「ケルトの十字架」はキリスト教に先立ち、最古の例は紀元前一万年のものがある。最初の十字架は太陽の象徴だった。巨石文化時代と、ケルト時代において、太陽は、宇宙の聖なる中心「世界の光」であると考えられた。太陽を表すしるしは、中心のある円である。円は、全体、周りを取り囲む精霊、光で照らす太陽 ― 万物を抱く光の中心を、表す。ケルトの十字架において、円は、すべての力が集まる中心である。中心の霊的な源は、ここでは神秘主義のケルトの三位一体の象徴であるtriskele(中心から三方に渦巻き模様が出た形)の模様で表されている。十字架は、太陽の四つの季節における位置 ― 宇宙の秩序 ― 四つの方位、要素、秩序を表す宇宙の車輪である。垂直方向にながくのびた直径の上に短い水平方向の軸に丸い頭がついた車輪の十字架は、ウェールズ、コーンウォール、マン島に特有なものである。 ==== Aois Dana - 詩人 9.jpg 女神Boannに因んで名づけられたBoyne(Irelandの川?)川の源は、次のように表されている。『源は、輝く泉で、そこから五つの川が流れ出し…、九本のヘーゼルの木が井戸を覆って茂っている。紫色のヘーゼルはその実を泉の中に落とし、五匹のサケがそれを食べ、殻を川に流した。この五つの流れが、五感であり、それを通して知識が伝達される。誰でも、その泉の水もhしくは、その流れの水を一滴でも飲まないことには、知識を得ることはできない。』才能ある芸術家は、その両方の水を飲む人々であり、このような人々が、Aois Dana、天来の詩人である。ここに書かれている「大地を軽やかに歩く」といいう文句は、母なる大地を崇めるよう捧げられた祈りである。 (ゲール語、aois-danaの逐語訳は、 old poetsである。) ==== シカ - Cernvnnos 10.jpg シカの神は初期のいくつかの動物の精霊の中で名前があるものの一つである。その名は、Cernunnosすなわち角のあるもの、もしくはシカの王である。そして、特に、角やひづめのある動物に君臨し、死者の霊をこの世と別の世界に追い立てる荒々しい狩を連想させる。Cernunnosは、イギリスの民話に狩人Herneとして登場する。狩人がシカと同一視されるのは、ー これは、とても古代の謎であるが ― 狩るものと狩られるものが同じということである。角ある動物、特にシカ、は男性に関連づけられている。ケルト人にとって、シカは、荒々しい自然の象徴である。その機敏さ、スピード、攻撃力と発情期における潜在能力により、シカは崇敬の対象とされ、その広がった木の様な枝角は、森のそのものの縮図であるようにおもわれる。シカは、姿を変えることを連想させ、ケルト神話中に、超自然的な存在として現れる。CulhwchとOlwenの物語の中では、 Rhedynfreのシカは、Arthurの臣下の通訳者 Gwrhyrと話すことができる。Mabinogiの中では、シカは、Pwyllと Arawnが会う時の仲介役を務める。vita merliniにおいて、Merlinは、この動物の王に変身する。 ==== Annwnアンヌン 11.jpg これはケルトの、この世と別の世界ーヴェール、仮面の向こうの世界のことである。それは、饗宴、ダンス、音楽が永久に続く魔法の世界であり、永遠の若さを保てるところでもある。人間世界と、その別の世界とは、行き来することが可能である。ウェールズの伝説 The Mabinogiでは、Dyfedの王Pwyllプウィルは、別の世界の王 Arawnアラウンに出会う。両者とも狩の途中であった。Arawnは、赤い耳の、輝くように白い猟犬を一群連れているが ― Annwnの猟犬 ― それは、彼の守護動物である。神話では二人は白いシカのことで口論になるが、一年間、互いの立場を入れ替わることで合意する。二人は魔術で姿を変えるので、 Arawnの妻でさえ Pwyllが夫の座にいることに気づかない。姿変えはケルト世界では不可欠な要素である。謎は、ある状況と状況の間、光と闇の間、夜と昼の間、こちらとあちらの間の流れの中で形をとる。精神的力の中心である頭は、ケルトの人々にとって、もっとも重要なところである。 ==== Gavrinisのケルン - 冬至 12.jpg Des Gavrinis島にある、Gavrinisの巨石文化の神殿は、紀元前3500年から4000年のものとされる。この巨石を積み上げたケルンの内部には、律動的な流れと輝きの美しい模様 ― 日の出と日の入りの季節ごとの位置関係を表している緩やかに波打つ曲線と弓形 ― が深く彫られている。通路の突き当りの広間には、そこからたくさんの線が外に向かって流れ出ている輝く姿が、彫られている。冬至の日の出が、石の壁に彫られたその姿を目覚めさせる。すなわち大地の女神が太陽を生み、再び昼間が長くなっていくのである。ヘビのような印は、大地の渦巻状のエネルギーを表していて、ヘビは、再生を表している。下向きの三角形の模様は、肥沃と出産の女性の印である。らせん状の模様は、星の通った跡、水の波紋、われわれの指紋、地球のエネルギーの満ち引きに見られる宇宙を表す。 ==== 大地のヘビ 13.jpg ヘビは、ケルトの伝統に見られる、黄泉の国や魔法世界での重要な動物の一つである。ヘビは、しばしばトルク、すなわちケルトの王や神々がつける聖なる首飾りに見られる。ヘビは、古い皮を脱ぎ捨て、冬眠から目覚めて春に再び現れるので、不死のように見えることから再生の象徴とされる。またその両方の特質が生命力を体現しているように思われるので、ヘビは女性の力の最古の象徴の一つでもある。ケルトの治療師の多くは、ヘビを伴って現れる。それは、水、川、治療のための疾走(黄泉の国への入り口)に関連しているからである。古代の神話学すべてに、世界のヘビの何らかの形がある。ケルト人にとり、宇宙的に見て、世界を創造する種の象徴は、丸くて、トゲのあるウニである。尾の先を口に入れとぐろを巻くヘビ ― Ouroboros ―は、進化しつつ循環し、根源的には一致していることを表す無限にそして永久に続く輪であり、生命には終わりがないという原理の初めと終わりを表す考えでもある。