ケーキが食べたいネコ巡査

ヴェーテカッテン(小麦ネコ)は、ストックホルムで1928年に開店しました。この本のカフェと似ているお店が、クングスガタンとクララ・ノラ・キルコガタの角にあるのは偶然ではありません。


大きな街に、小さな通りと大きな通りがありました。小さな通りは、感じがよくて、大きな通りは危険でした。お天気のいい午後、ネコ巡査が、そんな危険な通りを、パトロールしていました。右左を見ながら、まっすぐに、ゆっくり歩いていました。するとおなかがすいてきました。どうしてか分かりました。三時十五分すぎだったのです。

ネコ巡査は、ケーキが食べたくなりました。「小麦ネコ」のカフェの外に立っていました。ちょうど、そこにいたので、ショーウインドーを見ました。今日、そこにケーキはありませんでした。それは、おかしなことでした。ネコ巡査は、かしこいおまわりさんだったので、店の中を探すのがだいじなことだと知っていました。あやしいやつが、よくコーヒーを飲んでいました。ネコ巡査は店に入っていきました。

「コーヒーと、ドレマーを二つ下さい。その後で、マザリンを一つ」とネコ巡査が言いました。 シルケ姉妹が棚の後ろに立っていました。「ケーキは、全部なくなってしまいました」とシルビア・シルケが言いました。「あとかたもなく」とシグリド・シルケが言いました。ネコ巡査はびっくりしました。ケーキが一つもないなんてことは、今までにありませんでした。「オープンサンドイッチならあります。いかがですか?」とシルビアが言いました。「絶対いやだ」とネコ巡査が言いました。

「でも、卵とアンチョビーのサンドは、ネコにぴったりの食べ物です。でなければ、レバーペースト。チーズものっています。それとも、エビのもありますよ」とシグリドが言いました。「絶対にいやだ。やめてくれ」とネコ巡査が言いました。「そういうのは、お昼の十二時か夕方六時にはちょうどいい。だが今は、三時十五分すぎだ!」「もうすぐ三時半ですよ」とシルビアが言いました。「そうだ、そうだ。だが食事の時間ではない。お茶の時間だ。おなかは別のものを欲しがっているんだ」とネコ巡査が言いました。

ネコ巡査のおなかはケーキを欲しがっていました。今、三時十五分すぎに、頭の中にあることをすべてうれしそうに言いました。「ドレマー、フィンスカ・ピナ(フィンランドの釘)、四角のチョコレート、デニッシュ、カスタードソースつきアップルパイ、シナモンロール、マザリン。とくにマザリンだな。パン生地にアーモンドが入っていて砂糖ごろもがかかっている」ネコ巡査は、話しているときに、あやしいものがあらわれたのを見ました。

そのとおりでした。ちいさな顔が、すみの後ろの方からのぞきました。そこは、「船室」という名の、「小麦ネコ」の中でいちばん暗い部屋でした。「船室」には、よく、あやしいやつが座っていました。すぐにネコ巡査は、見まわりに行こうとして、その方向にすっとんでいきました。けれど、前の方へ三回ジャンプしたとき、ドアが閉まるのが見えました。走っていく、ちいさな軽い足音が聞こえました。

ネコ巡査がキッチンに走っていくと、パン焼きのブルが、びっくりして毛を逆立てました。「ものすごく急いで走ってきたんですね」とブルが言いました。「理由があるんだよ」とネコ巡査が言いました。「聞きたいんだが、なぜこんなに棚が空っぽなんだい?君の焼いたドレマーはどこにあるんだい?」パン焼きのブルはしょんぼりしました。「せいいっぱい、やってるんです。おいしいのを余分に焼いたのに、休むこともできやしない。ケーキだけが、なくなっちゃうんです!」とブルが言いました。

シルケ姉妹もキッチンに入ってきました。「私たちも聞いたわ」とシルビアが言いました。「ケーキが、どこに、あとかたもなく消えてしまったのってね」とシグリドが言いました。ネコ巡査は、あたりを見回しました。そして「いいぞ」とパン焼きのブルに言いました。「何が?」とブルが聞きました。「君は、床に小麦粉をおいているね」とネコ巡査が言いました。「われわれ警察にとっては、つごうがいいぞ。消えたケーキは何も残っていない。ネコの指紋は、みんなちがう。ここをごらん!ネコの足あとだ」

ネコ巡査は、ケーキが食べたかったけれど、かしこいおまわりさんでもありました。ネコの足あとは、警察の「ネコの足あと記録簿」で調べることができるのを知っていました。ちょうど今、それが目の前にありました。パン焼きのブルとシルケ姉妹も後につづいて、どろぼうネコの足あとを追っていきました。そして、長いろうかを通って裏口に出ました。

足あとは、通りの外まで続いていました。みんなは、すぐに、そこまで行きました。「早く、いったい何を思いついたんだ」とネコ巡査がブルに言いました。「ぼ、ぼ、ぼくは、急ぐのがきらいなんです」とブルが言いました。「むやみに急ぐのと、急がなくてはならないのとは、ちがうんだ」とネコ巡査が言いました。そして、怒って「ちゃんと話しなさい」と言いました。ブルは、どもり始めました。「許してくれ」とネコ巡査が、かっかするのを押さえて言いました。「これが終ったら、楽しく、マザリンといっしょにお茶の時間にしよう」

パン焼きのブルは、すぐに、ほっとしたように言いました。「店の見習いのリサを見たんです」「よしよし」とネコ巡査が言いました。「あとから、コーヒーといっしょにフィンスカ・ピナもどうですか?」とブルが聞きました。「最初に、ケーキを見つけなくてはならん」と巡査が言いました。「この足あとは、リサのです。今朝、空っぽのふくろを持ってやってきて、昼休みに、それを持って出ていきました」とブルが言いました。「それで、どうした?」とネコ巡査が聞きました。「ふくろが重そうでした」とブルが答えました。

「ヒントになるな」とネコ巡査は考えました。そして歩道の上にケーキくずが落ちているのを見つけて、「なーるほど!粉砂糖だ!フィンスカ・ピナについてるやつだ!そのリサというやつは、いつものように戻ってきたか?昼休みのあとで?」と言いました。「しょんぼりしていました。それから、出て行きました。どこへ行ったか、わかりますよ」とブルが言いました。そこで、みんなは、二番目の横丁にある小さなドアの方へ行きました。

ドアを開けると、まっ暗でした。急な階段の上から、だれかの泣き声が聞こえてきました。ネコ巡査は、「とにかく、だまって」とパン焼きのブルに、ささやきました。みんなは、そっと階段をあがっていきました。ドアが開いていました。ネコ巡査が、最初に中に入りました。すぐに、リサが見つかりました。ソファのそばに座って泣いていました。だれかが、うすい毛布をかけてソファに寝ていました。「もっと」という声がしました。

リサが、大きくあけた誰かの口にケーキを入れました。ネコ巡査が言いました。「やめろ。何をしているんだ?わたしは、ネコ巡査だ。それは、盗んだものか?」そして、リサの横にある大きなふくろをさしました。その中には、ドレマーや、フィンスカ・ピナや、マザリンが、とてもたくさん入っていました。リサが、すすり泣きながら「これは、わたしのママです。ママは元気がないの。元気になるように、ケーキを食べなくちゃいけないの」と言いました。

「話を続けて」と巡査が言いました。お母さんが起きあがって、げっぷをしてパンくずを払いました。そして「これは、わたしのせいです。わたしは、カイサ・ネコという名で、リサの母です。むすめが、カフェで働けることになったとき、どんなにうれしかったか!わたしたちは、そこが大好きでした。わたしは、どうしても食べたくなりました。それで、取ってきてと言ったんです」と言いました。

カイサ・ネコは「わたしは、気が変になったみたいでした。食べるのをやめることができませんでした。小さな、すてきな砂糖ラスク!ドレマー!それは、おそろしいことでした」と言いました。それから「わたしとあなたは同じなかまですか?巡査はみんなネコですか?」と言いました。ネコ巡査が「たいていの巡査はネコだ。われわれは、みんな同じなかまだ。ここをカフェをにできないか?」と聞きました。「どんなにカフェに頼っているか分かった。わたしのおなかのぐあいで、四時ちょうどか、もう、すぎたころだと思うんだ」

パン焼きのブルとシルケ姉妹は、ふくろの中を調べてみました。「これは、売りものにはならないよ。ケーキは、ふちが欠けてるし、マザリンはベタベタしている。あした朝早く、新しく焼くよ」とブルが言いました。シルビア・シルケが「わたしたちで、それを食べましょう。コーヒーも飲みましょう。カイサは、味見のしごとをすればいいわ。ふくろを返してもらえれば、警察にはうったえません」と言いました。

ネコ巡査は、「小麦ネコ」のカフェのやわらかなうす暗がりの中で、コーヒーをがぶりと飲みました。スパイをみはっているのか、いないのか。きっと見ているのはドレマーでしょう。この街のいたるところで、今にも新しい犯罪がおこるかもしれません。ネコ巡査は、カイサ・ネコを見つめました。カイサは、友だちに囲まれています。これからは、くらしが新しくなることでしょう。もう、きりがなく食べつづけたり、リサにケーキを盗ませたりすることは、二度とないでしょう。

ドレマーの作り方

ヴェーテカッテンのドレマー(ヴェーテカッテン秘密のレシピ)
(お店で売っているものには、いろいろ違った種類があります!)

材料

作り方

(1シートに30個として、9シート分できる。)

ディナ・エグナのドレマー

もし、あなたの家のキッチンで焼くなら、次の分量で

材料

作り方

1シートに30個として、3シート分できる。
もっと少なくしたかったら、すべての材料を半分に。
Konstapel Katt Kraver Kakor:by Carl Johan De Geer and Magda Korotyn'ska