No more twist!
クリスマスの絵本の中で好きな本の一つが「The Tailor of Gloucester(グロースターの仕立て屋)」だ。
イギリスには、クリスマスイブに大聖堂の鐘が鳴り始めてから翌朝に鳴り終わるまでは、すべての動物が話すことができるという言い伝えがあったそうだ。このお話では、その間に、病気になった仕立て屋のかわりにネズミたちが仕事を引き受けてくれる。
捕まえておいたネズミを仕立て屋が逃がしたことを知って、ネコのシンプキンは怒って「twist」を隠してしまう。「twist(より糸)」は、糸をよって作るという製法からきているが、日本語では、ボタン穴をかがるという用途から「穴糸」という。
「twist」が足りなかったボタン穴を残して、ネズミたちがこっそり仕上げた上着の刺繍の絵も素晴らしい。
(「The Tailor of Gloucester」by Beatrix Potter)
2011年12月25日(日)
ギリシア神話雑感
ギリシア神話は、ギリシアが大好きなローマ人によって、ローマ土着の神話と重なりながら、文学、彫刻に残された。その後、現代に至るまで美術や文学の題材となっているし、「トロイの木馬」というコンピューターのウィルス名もある。
ギリシア神話に登場する女性といえば、美しくて英雄に助けられたりゼウスに誘拐されたりする役回りが多い中で、知恵あるメデイアは、アルゴ号で金羊毛を取りに行ったイアソンを助けたが、魔女であり希代の悪女として描かれる。一方、女神たちは、ヘラ、アテナ、アルテミス、アフロディテと勇ましくのびのびしている。
2011年12月02日(金)
「カエルはカエル」
「Kikker is Kikker」(Max Velthuijs作)という絵本をオランダ土産に貰った。
カエルが、友だちのアヒルのように飛べないし、ブタのように美味しいケーキが焼けないし、ノウサギのように本が読めないと落ち込むか、ノウサギに「君は、すてきな緑色だし泳げるし跳べるじゃないか」と言われて、自分の個性に気づいて元気になるという話らしい。
蛙は、英語「frog」、フランス語「grenouille」、ドイツ語「frosch」、イタリア語「rana」だそうだ。辞書を引いても活用形が違うのでさっぱり分からないオランダ語だったが、この単語に関しては「k」音で始まるところが日本語と同じで少し親近感を感じた。
2011年11月09日(水)
puffin
福島県の水族館「アクアマリンふくしま」に、エトピリカ(Tufted Puffin)がいた。ペンギンと同じように黒と白だが、ころっとした体型で橙色の嘴が印象的だ。「PUFFIN BOOKS」は「PENGUIN BOOKS」の児童書なので、パフィンはペンギンの子どもだと長いあいだ思っていたが違う種類だった。
2011年10月11日(火)
糸紡ぎ
パイを5つ食べてしまったのを、糸を5かせ紡いだと誤解された怠け者の娘が王妃になる。代わりに糸を紡いでくれた黒い小人の名前を当てるはめになり、困った王妃の話が、イギリス民話のトム・ティット・トットである。麻でなく羊毛だが、ほんの少し紡いでみて、その大変さが分かった。確かに糸を紡ぐより名前を考えた方が楽そうだが・・・。
2011年10月05日(水)
ライオンハート
ロビンフッドの話に登場するリチャード一世は「獅子心王」と呼ばれる。「Ivanhoe」の中では「Coeur De Lion」と呼ばれていた。ノルマンなのでフランス語。英語では「Richard the Lionhearted」になる。確かに直訳だ。
2011年09月03日(土)
「Ivanhoe」覚え書き
英国のSir Walter Scott作「Ivanhoe」は、アーサー王伝説、ロビンフッド伝承、シェイクスピアなど取り入れた中世騎士物語の古典である。
舞台は、12-13世紀イングランド。獅子心王リチャード一世が十字軍遠征で囚われの身になった隙に、王弟ジョンが王位簒奪を企てる不穏な世の中で、サクソンとノルマンの対立が続いている。
騎士の鍛錬と娯楽を兼ね、ジョンが盛大な槍試合を開いた折、個人戦、団体戦共にアイヴァンホーと名乗る騎士が勝ち、その名誉をサクソンの姫ロウィーナに捧げる。
アイヴァンホーは、実はサクソンの族長の息子だが、ノルマンのリチャードに仕える騎士になったため父から勘当されている。服装など文化が違うし騎士になると封土を献上しなくてはならないからだ。
アイヴァンホーが助け、又助けられたユダヤ人の高利貸しイサクは、キリスト教徒からもイスラム教徒からも嫌われ蔑まれているが、ジョンや修道院長や貴族に金を貸す大金持ちだ。シャイロックを彷彿とさせる。
もめ事は一対一の試合で解決する。ノルマンの騎士は、手袋を投げるのが挑戦のしるしで槍と剣を使う。サクソンは斧。森人は弓矢や六尺棒(quarter staff)を使う。
ロクスリー、実は伝説の義賊ロビンフッドが魅力的。弓の名手で、ヤナギの枝を立てたものを的にして、真ん中に命中させ枝を真っ二つに裂く。敵に対し「クリスマスのベーコンの塊に刺したクローブのように矢で串刺しにしてやる」の例えが面白い。バラッドでしか伝わっていないロビンフッドのイメージ形成に、この作品が影響を及ぼした。
リチャードは女嫌いの冒険好きで政治にはあまり興味がなさそう。王に対する作者の皮肉な視線も感じられる。
若い頃にサクソンの父兄を殺され、ずっと囚われの身となっているウルリカは火事を起こして復讐を果たすが、同世代の騎士は現役なのに「老婆」扱いなのが悲しい。ちなみに、その過酷な運命は、サトクリフ「ともしびをかかげて」のアクイラの妹フラビアも同じだが比べるとフラビアは幸せになった方ではないかと思われる。
ユダヤ人の高利貸しイサクの娘、美しいレベッカは、医薬の知識を持ち、テンプル騎士の求愛を拒絶し続けたため火あぶりの刑を宣告される。アイヴァンホーに槍試合で助け出されるが、その誇り高い姿が印象的。
「サクソンとノルマンが融合し英語が話されるのは、後のエドワード三世の時代である」で話は終わる。ノルマン優位だが、言語などにサクソン文化も交わってイングランドひいては現在の英国に繋がっていったのが良く分かる。
'Ivanhoe' Sir Walter Scott1819
2011年09月02日(金)
ヤギ
スイスの絵本作家ホフマンの原画は、透き通るような色彩だった。病気の子どもの為にグリム童話を絵本にしたのが最初だそうだ。4人の子どもたち各々に宛てた手作り絵本は愛情に溢れていた。
「7ひきのこやぎ」の母ヤギが、オオカミに負けない程しっかりして強そうなのが印象的だった。考えてみればノルウェーの昔話「3びきのやぎのがらがらどん」や、ノルウェーの農場生活を描いた「小さな牛追い」「牛追いの冬」でも、ヤギは強かった。
2011年08月02日(火)
緑色二種
ロビンフッドは、12、13世紀の中世イギリスの伝承の人物。シャーウッドの森に仲間を集めて活躍したといわれる。衣服の色は、明るい緑色と訳されるが、元は「Lincoln green」。Lincoln特産の生地だそうだ。敵の中に「Kendal green」の衣服を着た一派がいた。こちらは灰色がかった緑色だそうだ。どちらも緑の森に相応しい。
'The Adventure of Robin Hood' by Roger Lancelyn Green 1956
2011年07月08日(金)
「ピーター・パン」
妖精ティンカー・ベルは、ポットやヤカンを修理するから「鋳かけ屋(tinker)」の名がある。葉脈のドレスを着て少し太め。美しいベルの音で会話。ネバーランドの地下の家にある部屋には、妖精界のブランド家具が揃っている。妖精は赤ちゃんが初めて笑ったときに生まれ、その子が妖精を信じなくなると死んでしまうという。
海賊の親分フックは、ハンサムだが青白く忘れな草色の目をしている。悲運のスチュアート家似の顔立ちと言われたことがあるので、メアリ・スチュアートの曾孫のチャールズ二世風の衣装を着ている。実はパブリックスクールで学んだので、良いふるまい(good form)ができるかどうか常に気にしている、
ネバーランドで、鳥とピーターがことばが通じなくて互いにいらいらする場面は妙に現実的だ。こういう世界では動物とも会話ができそうな気がするのに・・・。
大人の作者の視点で書かれていて、全体に夜の夢というか、一部悪夢のような不思議な雰囲気の本だ。
'Peter Pan' J.M.Barrie 1911
2011年07月02日(土)
key
「key」には、「鍵」の他に「カエデの翼果」の意味がある。
アリソン・アトリー作「西風がくれた鍵」では、まさにカエデの翼果が鍵になって、少年がカエデの樹の秘密の扉を開けて中を見ることができる。
小豆島の名所、寒霞渓(かんかけい)に、立派なカエデの木があって、翼果がいっぱい成っていた。緑の葉の間に、先端が赤い二枚羽の翼果が今にも飛び出しそうに付いていた。なるほど、これなら「鍵」になりそう・・・と、瀬戸内海の島々の見晴らしよりも、この「key」に喜んでしまった。
2011年06月10日(金)
「The Ship that Flew」
ピーターが買った小さな船は、実は北欧神話に登場する魔法の船だった。折りたたんでポケットに入るほど小さいのに、この世のどこへでも、そして過去の時代のどこへでも、何人でも連れて行ってくれる。同時に、髪や肌の色や服装もその時代に相応しく変わり、ことばも通じるようになる。ピーター以下、四人兄妹が望んだ行き先は、母が入院している病室の他は、北欧神話の神々の住みかや、ノルマン征服時代のイングランド、古代エジプト、ロビンフッドの時代と、いかにも当時のイギリスの子どもたちが興味を持ちそうなところだ。
「バイユーのタペストリー」は、ノルマンディー公ウィリアムのイングランド征服を刺繍で描いた作品だが、以前はウィリアムの妻マチルダが寄進したとも伝えられていた。物語の中では、そのマチルダを名付け親に持つ少女マチルダが現代(ピーター兄妹の時代)にやって来る。彼女は、自分の時代に父が建てた石造りの教会が古びながらも残っているのを見て、その修繕費用を集めるバザーに、得意の刺繍の小袋を作って出品する。12世紀の古い刺し方で、今作られたばかりの素晴らしい作品に、現代の人たちは驚き、競りの値段が釣り上がっていく。
本筋には関係ないのだが、二人のご婦人が競りをする場面で、一人が「○○ポンド!」と値段を言うと、もう一人は「ギニー!(Guineas!)」とだけ言う。この作品が書かれた1939年に、まだ謝礼などに使われていたギニー金貨(Guineas)は、ポンドの1.05倍の価値だったので、そう言うだけで値段を釣り上げる意味になったわけだ。
また、「black eye」に、「殴って黒あざになる」と文字通り「黒い瞳」をかけたり、「Middle Ages(中世)」と「middle-aged(中年)」を間違えたりするところは訳せない面白さだ。
「The Ship that Flew」by Hilda Lewis(1939)
2011年06月04日(土)
リッキ・ティッキ・ターヴィ
「Rikki-tikki-tavi」というマングースが、恐ろしいコブラの夫妻と死闘をを演じ、ついにやっつける話が「ジャングルブック」の中にある。この名は、彼の戦いの雄叫び(long war-cry)'Rikk-tikk-tikki-tikki-tchk!'から来ていて、声に出して読むととても調子がいい。残念ながら日本語で書くと「リッキ・ティッキ・ターヴィ」のようになり間延びしてしまうが・・・。
また、彼のおくびょうな友、musk-ratの名前「Chuchundra」もネズミっぽい感じで面白い。
'Rikki-tikki-tavi' from「The Jungle Book」by Rudyard Kipling
2011年05月07日(日)