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「影の王」 スーザン・クーパー


 学校の図書室で、蔵書整理があった時、司書のS先生から「マイさん好きそうやから〜」と、紙袋一杯、除籍された本を頂きました。その上、サトクリフの本が除籍されると聞き「捨てるんだったら下さい」と、つい言ってしまったので、サトクリフの本が二冊ずつあるという贅沢なんだか何なんだかよく分からないことになってます。わーい。でも、ずっと欲しいって言ってる「辺境のオオカミ」の原書(現在絶版)はくれないんですよー。借りる人あたし以外にいないのに。ケチー。「出版社に手紙書きなさい」って言われました。ぷん。ま、そんなわけで、図書室にはしょっちゅう顔出してるんですが、その理由の一つに、司書の方々の素敵さがあります。その中の一人(っつーかボス?)である前述の先生は、もともと世界史の先生だったんですけど、児童書の趣味が私と合うんです。「H書房からサトクリフがまた和訳されましたよー」とか言って、図書室に入れてもらうこともしばしば(自分でも買うけど)。もちろん、あちらから本とか作家を薦めてくださることもありまして、その中の一人がスーザン・クーパーです。薦めてもらったのは「闇の戦い」シリーズ(ケルトの伝承を元にした、壮大なスケールのハイ・ファンタジー)なんですが、今回紹介するのは「影の王」です。タイトルはホラーめいてますが、中身は紛れもないファンタジーで、前回の「時の旅人」と同じくタイムスリップもの。舞台も近くて、現代と十六世紀のイギリス。でも、話もタイムスリップの種類も全然違います。とりあえずあらすじを読んでもらいますね。
 シェイクスピアの芝居を四百年前の当時と同じ形態で上演する、という企画に「真夏の夜の夢」のパック役として選ばれたアメリカの少年俳優ナット。新グローブ座での上演のためにロンドンに滞在していたのだが、ある朝起きるとそこは本当に四百前のロンドンだった。そこでもパック役を演じることになったナットは、シェイクスピア本人と自殺した父親を重ね合わせ、彼に惹かれていくが―――。
 映画「恋に落ちたシェイクスピア」をご覧の方とかは分かると思いますが、四百年前は、舞台に女性が上がることは禁止されてたんです。つまり、当時と同じ形態ってことはもちろん全員少年で上演するってことです。ちなみに「恋に落ちた〜」は、私の一番好きな映画の一つです(もう一つは「ベスト・フレンズ・ウェディング」←どーでもええって)。もう、ね。「影の王」はその時代の描写とかもすごく細かくて現実味があって、ナットが十六世紀でパックを演じる時の衣装、メイク、そういったものも実際見たように思えます。私自身が演劇部なので、役者の立場から読んでもいいなーって感じ。しかも泣ける。この話が特殊だと思うのは、話がナットを中心とした話として、だけでなくもっと広い視野で、時代や歴史を見据えた話として成立してることです。うーん、分かりにくいな。えー、言ってしまうと、このタイムスリップにはちゃんとした「理由」があるんです。そのキーパーソンがどういう形でことに関わっていたのかは、最後まで明かされないんだけど。「時は直線的にながれているのではない。時には、あるものが取り去られるのは、後でかえされるためだ、ということがある」。大切な人を二回も失くしたナットが、最後に救いを見つけられて、本当によかったと思います。こんな素敵な話と出会うキッカケをくれたS先生ありがとう。
 シェイクスピア、グローブ座を舞台にした近作には、ゲアリー・ブラックウッド作「シェイクスピアを盗め!」「シェイクスピアを代筆せよ!」もあります。こちらもおもしろいので是非読んでみてください。では、今回はこれまで。
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