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「川ベにそよかぜ」 ケネス・グレアム


 温暖化のはずなのに、二月より三月の方が寒いって一体どういう事なんですか?むー。まぁ春が来たからどうという事もないんですけどね。モグラくんのように春の大掃除をするわけでもなし。といってもモグラくんだって春の陽気に誘われて、掃除なんかほっ放り出して行っちゃいましたから。春にはやっぱり特別な力があるんですよ。うん。ご存知の方はもうお分かりでしょう。そう、今回紹介する本は、ケネス・グレアム著「川べにそよ風」(この題名は岡本浜江さん訳のものです。石井桃子さん訳の「たのしい川べ」の方が多分有名。)です。ではあらすじから。
 自分の家(巣穴?)の大掃除をしていたモグラくんは、春の陽気に誘われて外へ飛び出しました。川で出会ったミズネズミさんの家に居候しつつ、生まれて初めてボートに乗ったり、家からは遠く離れた「原始の森」を探検したり、ヒキガエルさんやアナグマさんなど、新しい友達を作ったりします。短編として読めるものが多いですが、真ん中ごろから、ヒキガエルさんにおこった事件を中心に話が発展していきます。この話は、著者が息子に話して聞かせていた(後に手紙に書いて送っていた)ものを元に書き上げられたもので、その点はA.A.ミルン著「くまのプーさん」と、共通しています。そうそう、ミルンは、この「川べにそよ風」を下敷きにして、「ヒキガエル館のヒキガエル」という戯曲も書いています。こちらも合わせてどうぞ。
 内容について言うと、食べ物の描写が素晴らしいです。なんでネズミがこんなおいしそうな物食べてんのさ!と、思わずツッコミを入れてしまうほど。『冷製のチキン。』さらに、『レイセイタンレイセイハムレイセイビーフキュウリノピクルスサラダフレンチロールクレソンサンドイッチビンヅメニクジンジャービールレモネードソーダスイ……。』どうですこの太っ腹ぶり!ネズミさんはちょっと遠足って時はいつもこのくらい持って行くそうです。そう、ミズネズミさんはやさしくて親切で、ちょっと心配性、そしてボートが大好きなネズミさんです。顔も広いし。アナグマさんに言わせると「詩人」なんですが。モグラくんは正直者。本当にいい奴です。私が好きなのは、大掃除の日以来、ずっとネズミさんの家にいた彼が、ある日の帰り道、自分自身の家に引き寄せられるように帰って行くところです。ネズミさんとモグラくんの性格がとてもよく現れています。それでまた、モグラくんの家っていうのがすごく小ぢんまりしてて住みやすそうなんですよ。ホビット庄の袋小路屋敷の次に、住んでみたい穴です。壁に取り付けられたベッドで寝たい!
 ヒキガエルさんについては…そうですねえ、更正前の彼みたいな奴が友達にいたら絶対絶交してます(←断言)。だから彼の冒険についてはあえて触れません。あ、でも、アナグマさんが友達ならいいなあ。すぐ頼っちゃいそう。「アナグマさーん、ちょっと聞いてくれませんかー?」って。「世捨て人」みたいな雰囲気がいいですよね。あと、「マイが選ぶ、この本の素敵な脇役で賞」(注:そんな賞はありません)は、カワウソさんに進呈します。ネズミさんの友達(川仲間?)として、ちょくちょく顔を出していた彼がその本領を発揮するのは、アナグマさんの屋敷でのことです。一晩中行方不明になっていた(「原始の森」に住んでいるアナグマさんを訪ねていた)モグラくんとネズミさんを捜しに来た彼が、ハリネズミの兄弟にしたことは、冗談にしては、なかなかキツく、幼く純真だった(笑)私に衝撃を与えました。いや、大したことないんですけどね。でもそんな彼の子どもが行方不明になったとき、ネズミさんとモグラくんは、不思議な体験をするのです。これは読んでのお楽しみ。
 もう百年近くも前に書かれた本なのに、そんなこと全く気にせず楽しめます。あ、最後に一つ。講談社に「川べにこがらし」という、さも続編かのような顔をしている本があるんですが、作者が違うのでご注意を。私は見事に騙されました。あーあ。では。
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