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「飛ぶ教室」 エーリヒ・ケストナー


 今回は、前回と同じく、エーリヒ・ケストナーの作品を紹介します。その名も「飛ぶ教室」。私がケストナー作品の中で、一番好きなものです。もう、本当おもしろいんですから!!言ってしまうと、前回は今回のための下準備だったのです。ごめんねエーミール。ではあらすじもどきへどうぞ。
 舞台はドイツのキルヒベルク。ヨハン・ジギスムント高等中学の寄宿舎に入っている五人の高等科一年の少年たちの、あるクリスマスの話です。「飛ぶ教室」というのは、彼らがクリスマスのお祝いに学校でやる劇の題名です。劇の練習や、実業学校の生徒との喧嘩、それぞれの家庭の事情などを、リアルに書いていて、といっても明るく楽しくて、私自身、色々な所で共感できます。やっぱり今は劇のこと。
 私は女子校で、女子が男役をすることなんて当たり前なのですが、この本は男子校なので、ウリーという、金髪の小さい貴族生まれの少年が女役をします。彼は自分が臆病だということに、ずっと引け目を感じていて、それもこの話の主題(?)の一つなのですが、それを自力で解消します。彼の一番の仲良しに、マチアスがいます。マチアスは、常に何か食べてます。はっきり言って、勉強についていえば馬鹿です。でも喧嘩はすごく強くて、将来はボクサーになる予定です。喧嘩の強さで一番なのがマチアスなら、頭の良さで一番なのはマルチンです。彼は高等科一年の首席で、ケストナーの分身の一人です。両親が貧しくて、休暇に家へ帰る旅費がないのに、母親との約束を守って泣かずにいようとする、強い精神力の持ち主で、「画家」でもあります。あと、「飛ぶ教室」を書いた、ヨーニーがいます。ヨーニーは孤児で、詩人です。ケストナーの得意な、現実と話の混ざるところ(「飛ぶ教室」ではあとがき)に出てくるのは彼です。そして、五人の中の最後の一人は、ひたすら理屈っぽいゼバスチアンです。数学もできると思うんですが、問題を解くより遺伝学の本を読む方がおもしろいらしいです。博識で、皮肉を言うのも天才的です。実は私が最も好きな登場人物です。あと、重要なのは、正義先生こと、舎監のベク先生と、禁煙先生の二人。この二人みたいな大人が周りにいればいいだろうなと思います。さらに、脇役で特筆すべきは「美少年テオドル」。マルチン達の先輩で、最初は嫌な奴なんですが、ある時を境にいい人になります。にしても、「美少年」って・・・。登場するたびに書いてあるので、よっぽど美少年なんでしょう。是非一度お会いしたいものです。それから、エーガーラント。実業学校生の指揮官だった彼はとても可哀想。でも態度は最後まで立派でした。クロイツカム先生は、ある意味素敵な先生。書き取りの授業はやってほしくないけど、普段の会話とかがすごく見てみたい。
 にしても、高校一年で、クリスマス劇でって、あまりに共通してるので、私のこの冬のテーマブックはこの一冊に決定です。以前に読んだ時は私がもっと幼かったので、いまいち入り込めなかったんですね。やっぱり 早く読めばいいってものでもありませんね。もっと時間とか文才とかあれば、「飛ぶ教室」自体を脚本にして上演、なんてこともやってみたかったんですが・・・。仕方ないので、彼らの様な魅力的な高校生活を送れるべく、日々精進しようと思います。
 ケストナーは、これ以外にも書いていて、「動物会議」「二人のロッテ」「五月三十五日」などがあります。特に、「エーミールと探偵たち」のまえがきを読んだ方は、「五月三十五日」を読むべきです。また、「ケストナーのほら吹き男爵」という題で出版されている本は、ケストナーが戦時中、偽名で出した短編集の翻訳です。私の力不足で、書ききれてないんですが、ケストナーの本には、ちょっとした会話とかに、独特のユーモアが盛り込まれていて、一度ハマったら病み付きです。あと、トリヤーの絵が、文章にすごく合っていて、個人的に大好きなので、岩波書店で出版されているものを読むことをオススメします。では、また。
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