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「エーミール」シリーズ エーリヒ・ケストナー


今回紹介する本はエーリヒ・ケストナー著「エーミールと探偵たち」「エーミールと三人のふたご」の二冊です。ちなみに我が家には岩波書店の「ケストナー少年文学全集」というシリーズのものがあるんですが、前者はなんと昭和四十二年発行のもので、定価三五〇円だというから驚きです。(後者は比較的新しいので一四五〇円)別に古本屋で買ったわけではなく、当時、母が買ってもらったものです。その割にめちゃくちゃキレイです。家にはときどき、「え、いつの?」という本があるんです。これもその一つ。で、内容はというと、スタンダードにおもしろい。児童文学を語るには外せませんね。まあ、ざっとあらすじを説明いたしましょう。
 舞台はドイツのノイシュタット。母親と二人暮しの少年、エーミールは、長期休暇に、ベルリンにいるおばあさんのところへ行くことになりました。ところが電車の中で、おばあさんに渡すための百四十マークを、乗り合わせた男に盗まれてしまいます。エーミールは、ベルリンで知り合った少年たちと協力して、何とかそれを取り戻そうと画策します・・・。そんな感じです。あまり詳しく書くとネタバレになってしまうので書きません。とにかく読んでくださいな。えーと、作者について軽く書いておくと、ケストナーは、元新聞記者で、詩人だったのを、ある人に勧められて少年小説を書き始めました。その一作目が「エーミールと探偵たち」です。それから数年して、続編、「エーミールと三人のふたご」を書いたときには、ドイツの状況はまったく変わっていました。ケストナーはナチスから圧迫され、著作を公衆の面前で焼かれ、「エーミールと三人のふたご」は、スイスから出版せざるを得ませんでした。それでも、話の中ではそんな状況をおくびにも出さず、エーミールと探偵たちの二年後を相変わらずの明るさで書いています。すごい人だと思います。
 さて、私がこの本を、というかケストナーの本を好きな理由は、その素敵なキャラクター達、あと、独特の前書き、登場人物紹介などにあります。私はグスタフが好きですが、教授くん、ちびの火曜日君など、呼び名からも分かるように、個性的な少年たちが沢山います。グスタフは別名、「警笛のグスタフ」です。二巻では警笛のみならず、バイクまで手に入れました。学校の成績は悪いですが、日常生活では最高です。主人公のエーミールのモデルはケストナー自身です。でも、話の中に「ケストナー」と名乗る新聞記者も出てきます。ケストナーはいろんな話に自分の分身を書いています。「点子ちゃんとアントン」では、自ら「アントンとエーミールが似ている」と書き、二人が握手している挿絵さえあります。あと、ポニー・ヒュートヘンを忘れちゃいけません。エーミールのいとこなのですが、圧倒的に少年の多いこの話で、彼らにひけをとらない個性を持った少女です。あと、イェシュケ警部はそんなに出てこないくせに、二巻の本筋に大きく絡んでくる人です。なかなか良い人です。
 前書きその他は読まないと分からないおもしろさ。クジラの足が何本かなんて知らなくて当然です。もちろん本編もおもしろい。一巻の、あの、単純だけど確実な自分のお札の証明だとか、名前の間違えられ方だとか、銅像にひげを書いたイタズラだとか。二巻の、田舎の子と都会の子の足の裏の違いだとか、ネクタイ嬢の悲劇だとか、無人島から帰れなくなって途方にくれる三人だとか。そうそう、グスタフが話す、学校でのイタズラの話なんかも笑えます。実際、あれ、学校でやったらおもしろいだろうになあ・・・。そんな現実味もあるこの二冊、ファンタジーではありませんが、ユーモアはたっぷりです。秋の夜長に読んでみて、ドイツっ子気分になるのも悪くないですよ。
 では、「あいことばエーミール!!!」
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