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なぞなぞ合戦

Bilbo(ビルボ)は、洞窟でGollumに出会い、なぞなぞ合戦を繰り広げる。その中の一つが、

This thing all things devours:
Birds, beasts, trees, flowers;
Gnaws iron, bites steel;
Grinds hard stones to meal;
Slays king, ruins town,
And beats high mountain down.

(鳥もけものも木も花も、
すべてのものを食いつくし、
鉄やはがねをかみくだき、
石を粉にすりつぶし、
王を殺し町をほろぼし、
山をうちたおすものは何だ?)

ビルボは、答えが分からず
'Time! Time!'
(「(考える)時間を!」)
と叫ぶが、幸いにも偶然そのなぞなぞの答えが「Time」(時)だった。

'The Hobbit' by J.R.R.Tolkien(1937)

亜麻布

西洋の昔話に出てくる糸紡ぎでできた布は、リネン(linen)。これは、亜麻布のことで、古代エジプトの時代からあり、十字架から降ろされたキリストの身体を包むのにも使われたそうだ。

"The Happy Day"

雪が降っている森の中で、ノネズミや、クマや、カタツムリや、リスや、ground hogが冬眠している。その動物たちが、ふと目を覚まし、空気中のにおいを嗅ぎながら雪野原を一斉に走り出す。着いた先には、花が一輪咲いていて、 みんな嬉しくて踊りだす。
白と黒の画面に、花の黄色が鮮やかで、春の訪れが待たれる今の季節にぴったりの絵本だ。

ground hog(woodchuck)は、地面に巣穴を掘って暮らすリス科の小動物で、日本ではあまり馴染みがないが、北米、カナダでは親しまれているらしい。

"The Happy Day" by Ruth Krauss, Pictures by Marc Simont(1949)

きちんと整ったアップルパイ?

家が没落したので、成り上がりの商人ウィドスンの妻に仕えているアンが、女主人の衣服をきちんと整頓した場面の原文は、
「Mrs. Widdison's clothes were all in apple-pie order」となっていた。

「apple-pie order」とは、「きちんと整っている状態」で、18世紀後半から見られる表現だそうだ。アップルパイのどこが「きちんと整っている」のだろうかと不思議だが、一説によると、フランス語の「折りたたまれたリネン」が訛ったらしい。

"Hobberdy Dick" by Katherine Briggs,1955

ドビーの先祖

ディックは、イングランド中ほどのコッツウォルズ地方にある屋敷に何百年もの間、住んできた。ふつうの人には見えない存在だが、ある少女には、「ぼろを着た小さな人」に見える。

時は17世紀後半、清教徒革命後、没落した貴族が屋敷を去り、かわりに新教徒の商人一家が住むことになった。新教徒は、古いしきたりに従わず、クリスマスも楽しく祝う事はしない。

屋敷を愛し、古いしきたりを守り、ディックの存在を信じる心優しい人たちを、彼はひそかに助け、また屋敷に隠された宝を守り、邪悪な魔女に立ち向かう。

ディックのおかげで、屋敷の女主人として幸せになった娘は、お礼に新しいシャツを贈る。それを着ると自由の身になれるのだ。

現代によみがえったディックの遠い末裔が、「ハリー・ポッター」シリーズに登場するハウスエルフのドビーだろう。

"Hobberdy Dick" by Katherine Briggs(1955),
Faber and Faber(2009)

'House of Many Ways'

家事は大の苦手で、ひたすら本を読むのが好きな女の子が、実は魔法の才能に恵まれていてトントン拍子に話が進むという、本好きの怠け者には夢のような楽しいお話。ただし、学校推薦図書には選ばれそうもない。

'Haul's Moving Castle'の続編なので、「動く城」の他にハウルやソフィーや火の悪魔も登場する。主な舞台は「動く城」ではなく「時間空間いろいろな場所に行ける家」である。

主人公の名前、Charmainの発音だが、チャーミング(Charming)と間違えられて喜んでいたので「チャーメイン」か?

'House of Many Ways' by Diana Wynne Jones

ライオンと一角獣

「貴婦人と一角獣」を見た。西暦1500年ごろに制作されたフランスのクリュニー美術館の6面連作タピスリーである。一面、千花模様の数十種の植物や、動物や鳥で埋め尽くされていて少々息苦しいが、近くで見ると、貴婦人の髪形やドレスもそれぞれ違っていて見飽きない。
日本で言えば和紙の襖や屏風に当たるような気がするが、こちらは、重厚な織物なので、壁掛けとして防寒の役目もしたようだ。

貴婦人の両脇に控えるライオンと一角獣を見ていたら、「鏡の国のアリス」に登場する伝承童謡のライオンと一角獣がプラムケーキを挟んでにらみ合う場面を思い出した。

"Howl's Moving Castle"

英国ウェールズ出身の青年、ハウエル・ジェンキンスは、ラグビーが得意で、大学で「呪文と魔術」という博士論文を書くほど優秀だったが、定職につかなかったので、たまに姉夫婦の家に行くと「働きもしないで・・・」と叱られていた。ところが実は、彼には特殊な才能があり、別世界に行って「魔法使いハウル」になって「動く城」に住んでいたのだ。そして、たまに訪れるウェールズで甥に創ってやったゲームが「動く城」だった。

この物語は、イケメンだが弟気質のハウルが、別世界で流れ星を助けるため困った事態に陥ったところに、しっかり者の長女ソフィーが巻き込まれるところから始まる。「オズの魔法使い」を連想させる、この作者らしい軽くて楽しい話だ。

"Howl's Moving Castle" by Diana Winne Jones

コーディアル

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風に乗ってやってきた不思議な乳母メアリー・ポピンズが、最初の晩、子どもたちに飲ませた「寝る前に一さじ」と書かれた壜は、苦い薬ではなく子どもたちそれぞれの大好物の味がした。その中で、ジェインのは「ライムジュース・コーディアル」(Lime-juice cordial)だった。

その、ずっと気になっていたコーディアルなるものを見つけたので買ってみた。要するに果物などの濃縮ジュースらしい。有名なのは、エルダーフラワーやジンジャーで、その起原はローマ帝国時代にさかのぼるという。エルダーフラワーのは、炭酸で割ったら爽やかでちょっと癖になる美味しさだ。

"Mary Poppins " by P.L/Travers

'Time of Wonder'

アメリカの長い夏休みに、姉妹と両親が東海岸の小島にやってくる。そこで、浜辺で遊んだり泳いだり船に乗ったり、春から夏の季節をたっぷり楽しむ。「すばらしい驚き」に満ちた日々。やがて、季節は進み嵐がやってきて夏が終わると、家族は町に引きあげる。潮の満ち引きの時間を頼りに暮らしていたのを、スクールバスの時間に合わせる暮らしに戻るのだ。

暑い夏の昼下がり、この本の海や空や木の絵を眺めているだけで少し爽やかな気分になる。

'Time of Wonder' by Robert McCloskey