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「第67回 正倉院展」

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正倉院の宝物は、8世紀後半、光明皇后が聖武天皇の遺愛の品々を、聖武天皇が建立した東大寺大仏に納めたものが基になっている。
その後、1200年以上、厳重に管理保管そして修復され、伝えられてきた。毎年秋に、点検、虫干しを兼ねて一部が一般公開されている。

今年、印象に残ったものは・・・

まず楽器。聖武天皇は音楽がお好きだったそうだ。
「紫檀木画槽琵琶(したんもくがそうのびわ)」は、東大寺伝来の品で、裏の模様が、一世を風靡したブランドバッグを思い出させる。そもそも、あちらは日本の家紋にヒントを得てデザインされたものらしいが、この琵琶のデザインが、1200年の時を超えて現代にも通じるのが素晴らしい。ただし、寄木細工の緻密さには圧倒される。

「漆鼓(うるしのつづみ)」は、囃し方の大鼓の胴よりも、もっと大ぶりで素朴な感じがする。

「彫石横笛(ちょうせきのおうてき)」「彫石尺八(ちょうせきのしゃくはち)」は、なんと石でできていて、表面に文様とともに竹に似せて節までつくられている。会場に音色が流れていた。

次に、「平螺鈿背八角鏡(へいらでんはいのはっかくきょう)」。これは、裏側に琥珀と螺鈿で花模様が描かれた美しい鏡で、細かく割れていたのを明治時代に修復したそうだ。

それから、何本かの「筆」。文字を書く先の部分は、兎や狸や鹿などの毛と紙で、持ち手は竹でつくられている。
『写経所の物資調達に関する書類』には、経文用に兎毛の筆(百五十紙あたり筆一本)、界線用に鹿毛の筆、題字用に狸毛の筆をそれぞれ渡した本数などが記録されていた。

『七夕の詩が習書された興福寺西金堂の造寺造仏に関する報告書』というのもあった。不要になって写経所に回ってきた古紙に何度も何度も「七夕の詩」を練習しているものである。紙が貴重だったのが良く分かる。
最後、経典の巻物の裏に、さらさらっと雑な字で写経生のサインがあった。

写経生は、当時の国家公務員である。一字の誤字もなくきっちりと写経された経典の数々を見ると人間業とは思えないが、一生懸命練習して、根をつめて仕事をして、出来上がって提出してほっとしている彼らの様子が思い浮かんで、毎年のことながら当時の人を身近に感じてしまう。